2016 Fiscal Year Annual Research Report
ナチ映画を巡る現代ドイツ・ナショナリズムのメディア論的研究:2010年代の新展開
Project/Area Number |
26370192
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
古川 裕朗 広島修道大学, 商学部, 教授 (20389050)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ映画 / ナチ・ドイツ / ナショナリズム / アイデンティティ / メディア論 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度前年度にあたる平成28年度は、冊子『現代ドイツ映画 2001-2009』を完成させた。前年度すでに入稿を済ませていたものだが、28年度になって最終的な完成へと至った。この冊子には2001年から2009年までのドイツ映画賞(作品賞)受賞作に関し、その登場人物や物語序盤のあらすじが記されている。学部授業の中で副教材として使用し、研究成果の社会還元を行った。また映画のメディア論的研究を進める上で必要な映画メディアに伴う時代認識を論じた論考を発表した。 研究の主な進展としては、2010年代のドイツ映画賞受賞作である《Hannah Arendt》(2013年受賞)と《Der Staat gegen Fritz Bauer》(2016年受賞)に焦点を合わせて研究を行った。両作品ともアイヒマン問題という具体的な歴史事象を題材とする映画である。これら両作において描き出されるドイツ・ナショナリズムを明らかにするため、アイヒマン問題が浮上した1960年前後のドイツ・ナショナリズムの把握を試みた。主な資料としてはトーマス・マンやカール・ヤスパースなど有力な知識人の主張、あるいはテオドア・ホイスやハインリヒ・リュプケなど西ドイツ大統領の演説を分析した。これによって、1950年代から1960年代にかけては、ナチ時代に失われたドイツ・アイデンティティを再構築しようとする大きな動きが存在していたことが分かった。 以上も踏まえてこれまでの研究を振り返ると、研究目的の大きな重要項目であった2010年代の展開に関しては、越境的・多国間的物語設定の継承、〈凡俗なドイツ人〉を描き出すことによる一般国民とナチとの連続性の示唆といった2010年代初頭における傾向が継続していることが確認された。また通史の作成に関しては、さらに「移民・難民」や「東西ドイツ」などのテーマを加え、より包括的な見地から行うことにした。
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