2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370196
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Research Institution | Nagoya Future Culture College |
Principal Investigator |
吉村 いづみ(吉村いづみ) 名古屋文化短期大学, その他部局等, 教授 (60352895)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 英国映画史 / 視覚文化論 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は8月、9月、2月の三度にわたってロンドンに出向き、基礎資料の収集に従事した。幸い、British Film Instituteに保管されている1896年から1910年までの約100点に亘る映像資料は全て閲覧することができた。映像を見ながら研究者によって書かれた説明文をパソコンで書き写し、自分なりの分析も付け加えることができた。これは大きな収穫である。ここに保管されていない資料の一部は、別の場所にあるアーカイヴに出向き、35mmのフィルムで閲覧した。沢山の資料を見るうちに英国独自と思われる題材や表現、形式を確認することができた。さらに、当時のカタログや業界紙の記事をマイクロフィルムで閲覧し、映画に対して人々が持っていた期待や関心、反応についても理解が深まった。連携研究者ともロンドンで数回会い、最新の情報を得ることができた。 今回の研究は映画を社会史的観点から捉え、英国における映画とナショナリズムとの関係を掘り下げることにある。英国の初期映画の特色の一つは、スタジオではなく、屋外のロケーション撮影を多用していることである。そのため、フィクションより、ノン・フィクション(記録映画)の方が多い。英国映画はソーシャル・リアリズムを描いているとよく言われるが、その傾向はすでに映画創生期から見られることがわかった。ただし、この時期、映画は物語というより、スペクタクル的な側面が大きい。従って現代映画のように社会的な矛盾や葛藤を描くと言うよりも、地理的、あるいは対外的な知的好奇心を満足させる主題が多くみられる。これは映画創生期が大英帝国ヴィクトリア朝の終盤、すなわち植民地を海外に広げていた時期と重なっていることと関係がある。多用された題材からも映画がナショナルな共同体の生成に関与していたことが認められた。この成果は3月に日本映像学会中部支部会で口頭発表し、論文を発行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の目標は基礎資料の蓄積であった。すでにイギリスで刊行されている書籍、論文は可能な限り入手し、4月から7月にかけて、それらを読み進めながら先行研究の成果を概ね掴んだ。その過程で詳しく調べたいことを書き出し、8月と9月は、ロンドンのBritish Film Institute(BFI)へ赴いた。実際に現地で調べてみると参考になる研究資料が多数みつかった。全てを持ち帰ることはできなかったが、主要な論文、本研究で重要と思われる当時のカタログを紙コピーとマイクロフィルムのデータで持ち帰った。さらに、BFI付属の映像資料室で、1896年から1903年までの映画、約70本を閲覧し、詳細な資料を作成した。10月から12月まではそれらを整理しながら年ごとに作品を記入し、初期映画で主要となっていた題材を分析・考察した。この結果、同じ時期のアメリカ、フランス映画と比べて、英国の映画には「海・船」、「王室」、「軍隊」といった題材が多用されていることがわかった。これは映画以前の視覚装置や大英帝国の対外政策と関連していると思われる。さらに、英国における映画の発展には、ヴィクトリア女王の在位60周年パレード(1897年)と、第二次ボーア戦争(1899年)が大きく関与しており、映画が帝国の植民地政策を広く大衆に広める役割を果たしたことがわかった。 2月には、再度ロンドンに赴き(一部自費)1903年から1910年までの約30本の映像資料を全て閲覧した。予期しなかった収穫は、当時のカタログから「芸者もの」や「日露戦争関連」のフィルムをいくつか発見したことである。「芸者もの」は1902年の日英同盟の終結と関連しているようにも思える。3月には学会で英国映画初期の題材の特徴を発表し、論文としてまとめた。計画していた1896年から1910年までの基礎資料は概ね蓄積できたと感じている
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度と同じように、平成27年度から28年度まで毎年2回、ロンドンのBFIに出向いて資料を収集する。特に平成27年度は、前年度に蓄積した基礎情報を基に、年ごと、あるいは全般をとおして特徴的な社会的・文化的要素( the Britishness)を抽出しながら研究を続ける。今回偶然発見した「日本もの」のフィルムも続けて調査したい。これまで数回現地を訪れ、日本では入手できない数多くの資料を発見した。発見した全ての資料を読めるとは思えないが、少なくとも著書としてまとめられるだけの資料は確保したい。 27年度は特に、検閲制度を中心とした社会史研究に従事する。検閲制度についての研究は既に平成24年度の冬から始めているが、これを更に掘り下げて進め、同年度3月までには検閲制度前(18世紀の法令)からBBFC(英国映画検閲委員会)設立後まで、体系的に記述できる状態にする。幸い、英国の映画検閲に関する論考を平成28年3月末までに入稿してほしいという依頼を出版社から受けたばかりである。一年間は原稿を書き進めながら研究を続ける。 さらに、9月には顔学会で、英国初期映画にジャンルとして存在した「顔もの」について発表する予定である。このために、8月には検閲に加えて「顔もの」についての調査を現地で行う予定である。連携研究者の佐藤元状氏が留学先のロンドンから慶応義塾大学に戻ったので、27年度からは分担者として、より大きく関わってもらう予定である。 平成28年度は、第一次世界大戦と映画の関係を中心とした研究に従事するとともに、それまでの研究をまとめる作業に入る。そのためには1920年ぐらいまでの映像資料を現地で閲覧したい。まとめた研究成果は随時、紀要、学会誌などに投稿し公表する。
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Causes of Carryover |
英国映画の資料は、日本では殆ど存在しない。最近になってわずかな研究が出てきたが、第一次世界大戦前までの映画を扱ったものは皆無である。当該研究を進めるためには、引き続き現地の施設へ行き、資料を収集する以外に方法がない。 次年度使用額が生じた主な理由として、ロンドンに赴き、資料を収集するための旅費やコピー代、書籍購入費が必要なことが挙げられる。英国にはサイレント映画の研究をしているグループがあり、毎年、その成果が様々な研究誌等で発表されている。フィルムの大半は失われたが、それらを掘り起す試みは英国国内で活発に行われている。残念ながら、こうした文献を日本で所有している大学は皆無であるし、その根拠として記された資料さえ確認することができない。資料を入手するためにも、助成金が必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
助成金は、現地へ行くための旅費、滞在費、現地で資料を獲得するためのコピー代、書籍購入費に充てる。滞在できる時間が限られているので、現地で資料をゆっくり読む余裕はなく、できるだけ持ち帰り、日本に帰ってから読むようにしている。特に27年度は検閲組織が成立する1910年から1913年までの資料を確保する。 また、27年度4月から連携研究者の佐藤氏が慶応義塾大学に戻ったので、分担者として協力してもらいながら、国内でのイギリス映画の研究を活発にしたい。そのための国内出張費や、国内外での学会出張費にも充てる計画である。
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Research Products
(5 results)