2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370196
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Research Institution | Nagoya Future Culture College |
Principal Investigator |
吉村 いづみ (吉村いづみ) 名古屋文化短期大学, その他部局等, 教授 (60352895)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (50433735)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 英国映画史 / 視覚文化論 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、9月に二週間ロンドンのBFI(映画協会)に赴き、引き続きサイレント映画の調査を行った。前年度は1896年から1905年までを中心に、保存されている映画のデータを集めたが、当該年度は1906年から1915年までのデータを中心に集めた。特にこの年度の目的は、BBFC(英国映画検閲委員会)の検閲に関連する映画の調査であったため、BBFCが拒絶した性病プロパガンダ映画『Damaged Goods』や、戦後の外交政策に影響を及ぼすと考えられ、外務省が介入した『Dawn』について、ロンドンの中心部にあるアーカイヴにて視聴し、関連する当時の資料を集めた。全体的な映画の資料については、当時の雑誌BioscopeやKinematograph Weeklyを閲覧したが、1910年代に入ると、一号のボリュームが大きく、全てを読むことは無理だとわかり、検閲についての資料を中心にデータとプリントで持ち帰った。この成果は、帰国後、「ヌード、性病、産児制限 ―英国検閲委員会が目指した映画の浄化」として論文にまとめた。次年度、学術系出版社から共著として発表することが決まっている。 8月のロンドン出張時には、「顔」を見せることを目的として撮影された映画について、1902年から1906年までのカタログについて再調査を行った。この成果を、『ジャンルとしての「顔もの」―英国サイレント映画における顔の表現』として、9月12日~13日で中京大学で開催された「第20回日本顔学会大会」で発表したところ、「優れた研究発表」と評価され、「2015年 原島賞」を受賞することができた。受賞後、発表内容を論文にまとめ、2月に学会に提出した。 分担者の佐藤元状も11月にロンドンに赴き、英国映画の資料を収集。「プロパガンダとか何か―『恐怖省』と第二次世界大戦下のイギリス映画」として論文にまとめ、公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由は二つあり、一つ目は通常の業務の負担が増えてしまったことである。年度途中で、頼りにしていた英語の専任教員と、かなりのコマ数を担当していた非常勤講師が続けて退職した。結果的に、12月以降、新たな人材の獲得と、残された仕事の引き継ぎに予想以上の時間をとられた。さらに、29年度開設の新規国際コースの立ち上げを担うことになり、後半は人材の確保やカリキュラム作成に奔走した。研究計画時には、これらは全く想定外であった。4月から採用した英語教員はまだ不慣れで、現在も業務の引き継ぎに時間をとられている。 もう一つは、取り扱うデータの多さに対して、英国滞在の時間が追いつかないことである。一度の出張で資料を閲覧できる時間は限られている。調査を進めるうち、英国サイレント映画の膨大な数に圧倒され、当初の見積もりが甘かったことを痛感している。時間が足りない分は自費でロンドンに赴く予定であったが、時間的な余裕がなく当該年度は一度しか赴くことができなかった。取り扱う年度別の研究自体は比較的計画通りに進んでいるとはいえ、データベースとして公表するデータ収集については、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は第一次大戦と映画との関係をまとめることにある。幸い、27年度の出張の際、参考になりそうな文献を持ち帰ると同時に、いくつかの先行研究を入手することができた。これをもとに、5月から7月の間に先行研究をまとめ、今年度8月の後半に予定しているロンドンの出張で、足りない資料を入手したい。また、今回の出張時には1915年から1927年までの作品を視聴し、1896年から積み上げてきたデータを完成させたい。15年頃から、一つの作品が長くなり、視聴するにも以前より時間がかかるようになっているので、DVDで入手できる作品は英国から取り寄せ、ロンドンでの滞在時間を有効的に使いたい。 今年度、特に取り組みたいことは、フィクション映画についても取り扱うことである。これまでアクチュアリティとボーア戦争、社会純潔運動と検閲についてまとめてきたが、通常のフィクション映画に描かれたナショナリズムも考察の範囲に入れたい。一次大戦の映画については、プロパガンダ映画として製作されたものと、通常の観客を対象として製作されたフィクションの二つの視点から取り扱う予定である。 後半には、分担者の佐藤氏と協力し、東京にてイギリス映画のシンポジウムを開催することを計画中である。これは将来的に(仮称)イギリス学会を立ち上げることを目的としている。研究者の枠を超えて、文化、娯楽、社会史を視野に入れた英国を扱う「研究会」を設立し、日本において英国の理解を深める場を作りたい。 平成28年度は最終年度でもあるので、これまで収集してきたデータをまとめ、研究成果を広く知ってもらうためにウエッブサイトで簡易データベースを構築するための試みを本格的に始めたい。
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Causes of Carryover |
8月に計画しているロンドンへの出張時に、BFI、もしくはBFIのアーカイブ視聴室で第一次大戦に関連する雑誌や実際の映画を視聴する。英国映画の文献(特に当時の雑誌)やカタログなどの資料、あるいは実際の映像は、日本では入手できないため、現地に赴き、マイクロフィルムで閲覧するしかない。分担者の佐藤氏は、英国から資料を取り寄せ、20年代後半から30年代、第二次大戦に至るまでの期間についての研究を続ける。年度後半(冬頃)には、東京でイギリス映画のシンポジウムを開催したいので、そのための旅費、教室使用代、告知のためのパンフレット作成代も必要である。 また、これまでエクセル形式で積み上げてきたデータを完成させ、ウェッブサイトに掲載する実験を実施する。そのためのパソコンソフト、付属品を購入する経費が必要になる。自分がデータ入力の時間がとれない場合は、アルバイトを採用し、人件費に使用したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
もっとも大きな割合を占めるのは、8月のロンドン出張時の旅費である。廉価なフライトを使用しているとはいえ、ロンドンの物価は高く、約二週間の宿泊費、交通費、資料のコピー代が全体のかなりの部分を占める。限られたロンドンでの滞在時間を有効に使うために、英国から取り寄せることができる資料は、事前に取り寄せたい。使用額の一部はこうした文献、DVDを含めた資料代に充てる。同様の資料代は分担者にも送金する。 年度の後半に開催を予定しているシンポジウムの費用(会場費、旅費、印刷代)、データベース構築に必要なパソコン周辺機器、データ入力の人件費についても使用する予定である。
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Research Products
(5 results)