2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370196
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Research Institution | Nagoya Future Culture College |
Principal Investigator |
吉村 いづみ (吉村いづみ) 名古屋文化短期大学, その他部局等, 教授 (60352895)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (50433735)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 英国映画史 / 視覚文化論 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究計画は主に第一次世界大戦と英国サイレント映画との関係について資料を収集することであった。そこで、8月の下旬から9月上旬までロンドンの英国映画協会(British Film Institute)に赴き、できる限りの資料を持ち帰った。このテーマについては、イギリス国内で既に著作として出版されているものもあるので、既に発表されたものは入手し、年別、カテゴリー別にノートを作成しながら、まとめている最中である。 英国映画協会滞在時は、第一次大戦の時期にこだわらず、保存されているサイレント映画をなるべく多く視聴し、メモをとった。このプロジェクトを始めてから三年目になるが、こうして蓄積した作品のメモは100ページを超える分量になり、英国サイレント映画の独自性が抽出できるようになってきた。例えば1896年から1900年までの初期映画の中で、「海」が重要なテーマになっていることは既に発表したが(詳細は拙稿「R.W. ポールが捉えた英国―イギリスにおける記録映画(1896-1900)の題材について」を参照のこと)、1900年半ばになると、対外意識の対象が、それまでのフランスではなくドイツに移り、それが映画にも反映されていることがわかった。例えばこの頃「スパイもの」というイギリス発のジャンルが生まれたが、背景にあるのはドイツの海軍力の増強である。現存しているいくつかの作品も視聴できた。第一次大戦の作品は、こうした前後関係も踏まえて論考を進めている。 尚、当該年度の代表的な研究成果としては、日本顔学会誌(第16巻第2号)に学術論文として掲載された「ジャンルとしての「顔もの」(facials) ―英国サイレント映画における顔の表現―」と、年末に京都大学で開催された日本映画学会のシンポジウム、『〈汚〉の映画史』における、「英国の映画検閲といかがわしき〈病〉」がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来三年で終了するはずであった研究期間を一年間延長している。延長に至った理由は、当該年度に出版されるはずであった共著の出版が一年間延びたことと、次年度にシンポジウムを延期したかったことが挙げられるが、英国に行くたび膨大な資料を発見しながらも滞在できる時間が充分に確保できておらず、納得のいく成果に至っていないと感じているからである。
特に、1900年代半ば過ぎから一本の映画の時間も長くなり、一日に視聴できる本数が限られてきた。また、雑誌などの一次資料の分量も多くなり、正味8日間の滞在日数では全ての資料に目をとおすことが困難になってきている。幸い、延長が認められたので、次年度は、充分な時間を確保するべく努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は二つのテーマを同時に進行させる。 一つは第一次世界大戦と英国サイレント映画についての研究をまとめることである。もともと今回のプロジェクトの目的は、ナショナリズムを念頭においた社会史として映画を捉えることにある。実際に映画を視聴して資料を蓄積していく過程で、既に1904年には、ドイツ海軍を意識した「英国海軍もの」ともいえるシリーズが作られていることがわかった。拙稿「R.W.ポールが捉えた英国―イギリスにおける記録映画(1896-1900)の題材について」においても指摘したとおり、初期の英国サイレント映画でも海は特殊なテーマであり、それは、英国が島国であり、対岸の大陸の軍事力を常に意識していたからであると考えられる。初期の作品(ボーア戦争あたりまで)はフランスを意識していたものが多いが、1900年代半ば以降、英国の意識はドイツに移る。ドイツ海軍を意識した「スパイもの」と言える作品が多数作られているからである。現在既に発表されている研究は第一大戦期のみをまとめたものが多いが、それ以前から芽生えていたナショナリズムを、移民の扱いなども含めて包括的にまとめたい。 もう一つは、英国サイレント映画全体をいくつかのジャンルに分け、英国作品の独自性を抽出することである。これまで蓄積した膨大な資料を眺めていると、英国独自のテーマがいくつか見えてきた。例えば「ユダヤ人移民に関するもの」あるいは「女性のヒーローが男性を救う物語」は、この時期のアメリカやフランス映画にはない題材なのではないかと思われる。イギリスではユダヤ人の大量流入がきっかけとなり、1905年に移民法が成立した。前者はそうした社会背景によって生まれたジャンルである。他にも興味深いテーマがいくつもあり、それらはまだ日本で発表されていない。次年度は英米文化系の学会にも入り、これまで蓄積したデータを公表する機会を増やす。
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Causes of Carryover |
既に入稿済みの論文「『因果応報』と『きずもの』における「民族自滅」とその背景:英国検閲委員会が目指した映画の浄化」の出版(共著、『映画学叢書シリーズ:ジェンダーとエスニシティ』)が一年延期され、次年度に印刷費が生じること、当該年度に研究者と一般の方向けにシンポジウムを開催しようとしていたが、メンバーの予定がうまく合わず、次年度に延期する方が良いと判断したこと、の二つが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度予定されている共著の出版で生じる印刷費(執筆者買い取り分)と、秋以降に慶應義塾大学三田キャンパスで開催するシンポジウムで発生する講師料、交通費などに使用する。
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Research Products
(5 results)