2015 Fiscal Year Research-status Report
古代日本における口承文学の地域的多様性と表記の関連についての研究
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26370210
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
遠藤 耕太郎 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (50514113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 直巳 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (20141301)
富田 美智江 流通経済大学, 教育学習支援センター, 専任所員 (40615952)
岡部 隆志 共立女子短期大学, 文科, 教授 (50279733)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 口承文学 / 語り芸 / 文字化 / 記載文学 / 音仮名 / 歌掛け / 歌垣 / 少数民族 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年8月19日~31日にかけて、ナシ族(モソ人)の呪的職能者ダパの葬送儀礼調査、ナシ族の呪的職能者トンパの葬送儀礼調査、民間歌謡調査、剣川及び雲龍県のペー族の民間歌謡、祭文についての調査を中心とするフィールドワークを行った。 『梁山伯と祝英台』という漢字世界から流伝し、ペー語表記による台本を伴う語り芸が、大理や剣川に流入した結果、歌垣がさかんな剣川においては、音仮名表記を中心とした自由な表記でそれが記され、さらに物語も大幅にあらすじ化している。それは、物語がそのまま厳格に語られるのではなく、その一部の特徴的な表現(歌語的な)を使って、歌垣において相手を誘ったり拒否したりする即興的な歌表現に開かれていくからである。そこに、音仮名文字が読める歌い手が介在し、その周縁に文字の読めない歌い手たちがいるという、口承性と音仮名表記の関係性の一部が明らかになったと考える。 モソ人の葬送儀礼には死者を愛慕し、その死を認めないという言語表現から、死者を恐怖するがゆえに慰撫、鎮魂し、さらに死者の世界に送り届けるという言語表現への大きな流れが確認できる。こうした流れは、日本民俗学でも蘇生儀礼化から絶縁儀礼への流れとして把握されてきた状況と一致する。が、儀礼空間においては、両者はただ一方的に変化するのではなく、両者が互いに揺れ動きながら、最終的に絶縁儀礼に移行するという過程をとっている。死の悲しみを言語表現化するにあたって、こうした揺れ動きがどのように文字として表現されるのか。死者を愛慕する言語表現、死者を鎮魂慰撫する言語表現は、それぞれ独自な特徴的な言葉をもっている。その両方がペー族の祭文(ペー語で文字化されたもの)には現れるが、これは儀礼空間の揺れを文字で表現しようとしたものと考えられる。また、こうしたありようは、人麻呂の殯宮挽歌にも顕著である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ナシ族(モソ人)の呪的職能者ダパの、葬送儀礼に関する調査において、死者を恐怖するがゆえに慰撫鎮魂するという、かなり明確な資料を集めることができた。昨年度活字化が終了した、ペー族の文字化された祭文との比較を通して、口承と記載の関係を明らかにできた。今後、モソ人の女性による口承の哭き歌、ナシ族の哭き歌とトンパの呪文との関係、ペー族の哭き歌の採集と資料化によって、その地域的多様性を明らかにできると考える。 また、特に剣川の歌掛け調査において、文字が口承の歌垣のなかに逃避していく具体的な技術を知ることができた。今後、この理論を用いつつ、古代日本の音仮名表記と歌の地域性について考察をすることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、8月に、遠藤、岡部、山田、富田が、中国雲南省ニンラン県及び麗江市に赴き、モソ人の哭き歌、ナシ族の哭き歌とトンバの言語表現についての調査、さらに大理市、剣川県に赴き、哭き歌の調査を行う。大理と剣川では、「孝」の思想の流入に差があるが、そのことと、哭き歌、祭文の関係を中心に調査する。 また、28年度は、すでに資料化を進めている剣川の祭文を翻訳、資料化し、大理の祭文(資料化が済んでいる)との比較分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究協力者の富田氏が本年度は雲南省に行けなかったため、予算移行をした際に、余剰が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の旅費に計上した。
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