2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370214
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 明治大学, 文学部, 教授 (10453961)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 平家物語 / 唱導 / 安居院 / 転法輪鈔 / 弁暁 / 寺院資料 / 法会 |
Outline of Annual Research Achievements |
『平家物語』とそれを取り巻く唱導文化との関係性についての研究を実施した。唱導文化について、安居院流唱導資料および神奈川県立金沢文庫に保管される唱導資料の読解を通して、唱導が果たした社会的役割や文化的意義を考究した。その上で、それらを『平家物語』がどのように受け止めて吸収しているかについて考察した。 安居院流唱導資料の一つ『転法輪鈔』を手掛かりとして、唱導の名手であった澄憲と世俗社会との交流様相を追究した。澄憲に仏事を依頼した施主の中には歌人として活動した人物が何人か含まれる。それらの人物と澄憲との交際を調べていくと、和歌の贈答も行われれていたことが確認できる。そこで表白の表現をあらためて見直してみると、和歌表現との関係性を指摘できる箇所があることが分かった。澄憲は単に法会の導師を勤めるだけではなく、和歌活動を通しても公家の文化圏に参入していた。そして、澄憲が参入することで、その文化圏は姿を変えていった面を持つ。それは例えば新しい和歌表現の出現を通して確認することができる。また澄憲の作成した表白は、そのような文化圏の産物であり、また逆に、表白からその文化圏の特質を探ることができる。 神奈川県立金沢文庫に所蔵される唱導資料については、2013年に公刊された「弁暁草」の読解を通して、唱導が生み出したものについて追究した。具体的には、弁暁の唱導によって生み出された後白河法皇像を明らかにした。そして唱導によって、そのような後白河法皇像が世間に流通していく様から、メディアとして唱導をとらえることができることを論じた。 以上のような唱導文化研究を行いながら、それらと『平家物語』との関係性について明らかにしていく作業を行った。澄憲の表白の表現と関連する部分を指摘できたと同時に、弁暁ら唱導僧によって作られた後白河法皇像が『平家物語』に取り込まれていっていることを明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各地の文庫に所蔵される唱導資料のうち、安居院流唱導資料と金沢文庫に保管される唱導資料について、調査・研究を進めることができた。また、これらの唱導資料の読解を通して、唱導が生み出した文化圏とその特質や、唱導が果たした社会的役割について考察することができた。 また、唱導資料研究によって少しずつ明らかにできた唱導文化と『平家物語』との関係性について考察することができた。特に、『平家物語』の後白河法皇像が唱導によって作られた側面を濃厚に持つことを指摘できたことは大きな成果であると考える。 以上のような成果をあげることができたことにより、研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き唱導資料研究を深めながら、唱導文化と『平家物語』との関わりを総合的にとらえていく試みを実施する。 唱導資料については、安居院流唱導資料だけではなく、真言圏で作成したものの調査・研究も進めながら、唱導によって生まれた文化の特質について、多角的に考えていきたい。 一方、唱導と『平家物語』との関係性については、『平家物語』を丹念に読解しながら、唱導を通して『平家物語』の特質を明らかにしていくことを継続して行っていく。
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Causes of Carryover |
唱導資料調査について、当初計画よりも少ない回数で成果を上げることができたため、旅費の支出を少なくすることができた。 また、収集した資料やデータについて、当初計画では、謝金を支出しての整理を考慮していたが、自身で実施することができたので、人件費・謝金を支出する必要がなくった。 主に以上のような理由で、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に、唱導資料研究および、唱導文化と『平家物語』との関係性についての研究を進めるに当たり必要な物品および資料の購入のために使用する。 調査・研究のための旅費や人件費・謝金の支出が予定よりも多くなる場合にはそれらに充てる。
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