2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370221
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
宮崎 裕子 九州産業大学, 国際文化学部, 准教授 (40581533)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 書誌学 / 文献学 / 校本 / 石清水物語 / 中世王朝物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
『石清水物語』には、近世期以降に書写された30本近くの写本が伝わっており、それらは桑原博史氏の調査によって4系統に分類されてた(『中世物語の基礎的研究―資料と史的考察―』風間書房、1969年)。4系統中最も伝本数が多いのは、『正三位物語』の名で流布した第三系統で、近世期の成立と推定される伝本が、1本の零本も含めて、14本存在する。その内12本が「正三位物かたり柴田常昭か本をかりてうつさせたる一かへりよみあはせたゝしつ」という本居宣長の奥書を持ち、宣長の所持本であった本居宣長記念館蔵本から派生したものであることが確認されている。 第三系統伝本の成立については、桑原氏が示された、①祖本は第二系統伝本である、②すべての伝本は宣長所有の本から派生したものである、という見解が支持されており、第三系統の最善本は宣長所持本であると見なされてきた。しかしながら、平成28年度までに本研究において得られた調査結果は、桑原氏の説と齟齬するものであった。 まず、平成27年度までに、上記①については、第一系統に属する新潟大学佐野文庫蔵本・静嘉堂文庫蔵本が第三系統伝本に極めて近しい本文を有すること、この2本の中でも、静嘉堂文庫蔵本の本文がより第三系統に近いものであることが判明した。上記②についても、本居宣長記念館蔵本と宣長の奥書がない新出本である石水博物館蔵本の本文を、静嘉堂文庫蔵本の本文と比較した結果、石水博物館蔵本の方が祖本の系統である静嘉堂文庫蔵本により近い本文を持ち、本居宣長記念館蔵本を経ずに成立したものであることが明らかになった。 平成28年度には、前年度に引き続き、第一系統伝本と第三系統伝本の本文をより詳細に比較検討した。その結果、第三系統伝本の最善本は、本居宣長記念館蔵本ではなく、石水博物館蔵本であることが判明し、従来の説を覆す結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の内容は、科学研究費助成事業若手研究(B)「『石清水物語』第三系統諸伝本に関する本文研究及び校本作成」(研究課題番号23720111、平成23~25年度)から継続しており、本研究を申請した当初には、『石清水物語』第三系統伝本の祖本は第二系統伝本であるとする桑原博史氏の説に基づいて研究計画を立てたため、第二系統伝本とすでに調査済みの第三系統伝本との比較検討を優先事項としていた。しかし、「研究実績の概要」でも述べたように、本研究における調査の過程で第三系統の祖本は第一系統であると判明したことによって、研究計画を変更し、第一系統伝本に関する調査、及び同系統伝本と第三系統伝本との比較検討を重点的に実施することにした。 平成28年度末までには、石水博物館蔵本が第三系統内の最善本であることを明らかにし、同系統内における石水博物館蔵本の位置付けを明確にするという研究目的を達成することができた。 さらに、第一系統に属する8本の伝本については、現時点では暫定的な分類ではあるものの、名古屋市蓬左文庫蔵本の転写本である大阪府立中之島図書館蔵本を除く7本を、①名古屋市蓬左文庫蔵本・京都大学文学研究科蔵本、②岡山大学附属図書館池田家文庫蔵本・飛騨高山まちの博物館蔵本、③尊経閣文庫蔵本、④新潟大学佐野文庫蔵本・静嘉堂文庫蔵本、以上四つに大別することができた。 こうして得た研究成果は、「『石清水物語』第三系統伝本の成立に関する一考察―附・石水博物館蔵本の位置付け―」(『語文研究』第122号、2016年12月、1-17頁)として公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目標は、『石清水物語』諸伝本に関する本文研究及び校本の作成である。 今後も引き続き、第一系統伝本・第二系統伝本・第四系統伝本に関する調査を実施し、本文系譜の建設、電子テキスト・校本の作成を進める予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主な理由は、参加を予定していた研究報告会を公務のために欠席し、さらに、複数の資料所蔵機関の御都合(資料整理中の閲覧停止等)によって書誌調査も実施できず、旅費の使用額が当初の見込みよりも大幅に少なくなったことである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度に実施できなかった書誌調査は、資料所蔵機関から許可をいただくことができ次第、行う予定である。
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Research Products
(1 results)