2014 Fiscal Year Research-status Report
万葉集仙覚校訂本作成過程の解明に関わる万葉集諸伝本の包括的研究
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26370223
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
田中 大士 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (40722137)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 万葉集仙覚校訂本 / 仙覚寛元本 / 紀州本万葉集 / 朱の書き入れ / 親行本 / 仙覚本の奥書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、万葉集仙覚校訂本の第一次校訂本、寛元本の成立過程を復元することである。当該年度は、調査予定書目のうち、紀州本万葉集の調査、撮影を行い、紀州本の性格について明らかにした。また、研究においては、仙覚が校訂の底本として使用していた「親行本」について、親行本が仙覚の校訂にどのように使われていたかの実態解明を行い、仙覚が奥書で語っている親行本との齟齬と齟齬が生じた原因について明らかにした。 紀州本万葉集は、今は完全な形で残っていない仙覚寛元本の姿を最もよく反映している伝本である。そこには、寛元本で存したはずの、仙覚の訂正した訓が朱で書き入れられたさまなどが残っている。しかし、従来は調査も困難で、複製本があるものの、モノクロであり、朱の書き入れを含む正確な姿を把握することは不可能であった。申請者は、所蔵者の昭和美術館に調査、撮影を申し込み、いずれも許可を受けた。実物が綴じがきつく、撮影が困難なため、所蔵者の許可を得て、綴じを外して撮影を行った(書誌的な扱いは、元興寺文化財研究所に依頼した)。これにより、朱の書き入れを含む紀州本の詳細な調査が可能となり、朱の書き入れの範囲、内容がすべて明らかになった。その調査結果は、次年度の研究論文で公表する予定である。 研究の面では、仙覚寛元本の底本である「親行本」の解明を行った。親行本は、現存せず、従来その実態は明らかでなかった。しかし、申請者により、親行本が、現存の片仮名訓本系統と同じ本であることが明らかにされ、それらの内容と仙覚校訂本(第二次校訂本の文永本を使用)の内容が具体的に対応することが証明された。寛元本においては、片仮名訓本の親行本に、直接書き入れを行って、できあがったものが寛元本であることを明らかにした。この成果は、2014年5月の上代文学会大会で口頭発表し、同年11月の「上代文学」誌に論文が掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
諸伝本の調査については、当該年度は当初京大本代赭書き入れを主たる対象に予定していたが、撮影を申請していた紀州本万葉集(昭和美術館蔵)が、急遽許可が下りたため、紀州本の調査、撮影に切り替えた。紀州本は、当研究において、要になる伝本の一つであり、従来カラー写真は存在しなかった。精細なカラー写真が入手でき、寛元本の復元という当初の目的に向けて大きな進展となった。 寛元本復元に向けて、大きな障害になっているのは、寛元本の底本である親行本が現存しないことである。当該年度の研究発表、研究論文により、親行本と想定される片仮名訓本などと仙覚校訂本(文永本を使用)をつきあわせることにより、寛元本の制作の実態が明らかになってきた。 以上のように、伝本の調査においても、研究の側面においても、所定の目的に向けて順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、調査、研究両方の面で順調に推移している。調査の面では、今後は、当該年度に予定していた京大本万葉集代赭書き入れの調査、撮影を行う予定である。京大付属図書館は、申請者個人の撮影を許可しないため、図書館と話し合いながら、代赭書き入れを精細な写真に残す試みを行ってゆく。また、同書は、内容が多く、また、本自体が浩瀚なため、次年度一カ年では完了しない可能性が高い。調査が完成しない場合は、次々年度にも調査を継続する。 研究では、二つの課題に取り組む予定である。一つは、仙覚は、校訂本の奥書で、親行本を底本にしている点を明記している一方、そのほかの箇所では、親行本に一切言及していない。その矛盾にいかなる意味があるか。当該年度においても、ある程度明らかになっているが、別の観点からその意味を明らかにしてゆきたい。この点は、親行本が平仮名訓であるという従来の通説を覆す点で大きな意義がある。 もう一点は、本研究の主たる成果の一つは、親行本が現存の片仮名訓本と一致するという指摘である。しかし、親行本が現存しない現状では、その指摘の真偽が十分に明らかでないという危惧も残る。そこで、親行本―仙覚寛元本が一連の系統にあることを証明する必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2月、3月に計画していた調査旅行が、本務の多忙のため、計画通りに実行できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度で実行できなかった調査旅行のうち、一回は平成27年4月3日に名古屋に行き、残りも旅行計画を立てて実行する予定である。次年度使用額は少額であり、全体の計画に大きな変更の必要はない。
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Research Products
(3 results)