2015 Fiscal Year Research-status Report
東北地方諸藩の和歌活動と国学者の和歌思想との関係を解明する新研究
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26370229
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
錦 仁 新潟大学, 人文社会・教育科学系, フェロー (00125733)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
志立 正知 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (70248722)
平田 英夫 藤女子大学, 文学部, 教授 (70339638)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 歌枕(古歌) / 名所(各藩の設定) / 地誌(藩撰・私撰) / 地図(幕府に献上) / 国学者の著作物 / 漢学者の著作物 / 和歌の思想 / 古今集の仮名序 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究は順調に進んでいる。成果の一つ、仙台藩の最後の国学者・保田光則に関して各地の図書館・博物館を調査し自筆資料を発見した。現在、精緻な分析を進めている。光則は大部の地誌を編纂し、古今集などの古歌を集めて、日本人の心の表現を跡づけている。それらの基になったのは古今集の仮名序の和歌思想である。光則は文法・語法の研究もしている。地誌・和歌・国語学が一体となっており、故に仙台藩の国学者なのだった。古川古松軒の巡見記や蝦夷図などの研究も進めている。巡見記は各地の名所を尋ね、そこを詠んだ古歌をあげ、みずからも和歌を詠んでいる。古松軒はこれらを松平定信に献上した。蝦夷の地図は、当時の幕府の情報収集を示して興味深い。 それと関連して、私は幕府が全国の諸藩に派遣した巡見使の資料を酒田市立光丘文庫や宮城県図書館を調査して発見し、分析を進めている。重要なのは、幕府の巡見使は各藩に行き政治・経済の状況を視察するとともに名所・旧跡、古城・古戦場を視察していることである。各藩はそれらを地誌に記録し、幕府もまた日本地図を製作し書き込んでいる。名所・旧跡は古歌に詠まれた場所であり、その藩の文にかかわる歴史、古城・古戦場は武にかかわる歴史を体現するものであり、その藩の政治・経済と同じく重要な意味をもつと認識されていたことが分かった。以上、藩主の文学活動と国学者の地誌作成などが相互に深く関連していることが判明した。その奥に古今集の仮名序に込められた和歌の思想があることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は予想した資料がやや発見できず難渋したが、今年度に入って研究が格段に進展し、それに伴って貴重な新資料がたくさん発見できるようになった。特に注目すべき成果は、松平定信を中心として、かれと親しい藩主や人物たちの著作資料を分析して、言わんとする内容・思想が非常によく一致していることを発見・確認したことである。その一つは、和歌も漢詩も詠める名所のある藩(国)づくりは当時の幕府が主導したもので、定信に共鳴した各藩に見られる全国的な流行であった。そしてそれは、各藩に於ける古歌に詠まれた歌枕の名所化に発展し、藩撰・私撰の地誌に書き込まれ、幕府もまたさらに大きな規模で同じ事を行っている。万葉集・古今集以来の和歌は、こうして江戸時代へと継承され、文化の歴史・伝統のある国づくりが推進されたのである。藩主の和歌活動と国学者・儒学者たちのかかわりがよく分かるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度・今年度の研究成果を踏まえて、さらに自信をもって、東北各地の図書館・博物館・個人蔵の資料調査を進めていく。文献・資料を精密に調査し、その著者や成立を解明し、内容を深く分析し、和歌が当時の日本において、どのように活用されていたのかを究明していく。重要な資料がまだまだ未発見のまま秘蔵されていることが分かったし、新しい視点・観点から分析すれば、これまでにない研究成果をあげられると確信している。同時に、各館の学芸員たちとも親交し、その指導を仰ぎつつ、各館の活動に寄与・貢献できる研究になるよう配慮して研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
最終年度は、さらに資料収集のための調査旅費であり、参考文献の購入費が必要である。また、三年間の研究成果の報告書(私家版の冊子)にして刊行するため、その発行費その他が必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果報告書の発行費として約30万円(120部発行)、調査旅行費として約50万円(東北各地の図書館・博物館等に約6回)、参考文献の購入費として約15万円、その他、連絡費等として約5万円。
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Research Products
(11 results)