2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370236
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
奥村 和美 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (80329903)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 萬葉集 / 長歌 / 中国文学 / 千字文 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の実施計画では、大伴家持歌について、Ⅰ【類歌・類句の再検討】Ⅱ【中国詩文からの摂取についての検討】の2点を進めることを計画していた。 後者Ⅱについて、中国詩文の中でもいわゆる四書五経や正史或いは詞華集『文選』のような第一級の典籍ではなく、初等の教科書とされる『千字文』がどのように利用されたか、幾つかの具体的な例を通して明らかにした。『萬葉集』の漢字表記における文字選択のレベルだけではなく、書翰といった実用的な述作の場においてもしばしば利用されており、『千字文』は、平易であってかつ表現に若干のあやをつけることができる語句を提供する、手頃な佳句集として利用されていたことがわかった。『千字文』は識字のための教科書として、上代の知識人の教養を形成していたに違いないが、それのみにとどまらず、より高度な文学的表現へと橋渡しする役目をも果たしていたと言える。そのような点で、『千字文』は、上代日本において、『藝文類聚』や『初学記』といった中国の類書に近い位置づけを持っていたと考えられる。このことは、大伴家持や家持周辺の和歌表現を考察する上で、重要な視点を提供する。すなわち、『千字文』とその注を検討し直すことによって、かれらの漢籍に対する教養の、より直接的な出典が明らかになる可能性があるからである。 前者Ⅰについては、大伴家持の長歌「橘歌」(18・4111~4112)を中心に検討を行った。特に、これまで単に類歌としてのみ捉えられていた聖武天皇御製(6・1009)との強い関連を明らかにし、そこに、家持の聖武天皇のことばを踏まえる作歌方法と、それを通して可能となる、橘の寓意性について分析した。また、橘を長歌で詠むことにおいて、中国文学の詠物の賦などからの受容についても考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的ⅰ「類歌類句を考察することによって、家持が、長歌詠作の場が失われつつある中で独自に先行作品に学び、長歌を継続的に或いは集中的に詠むようになった過程を明らかにする」については、「橘歌」の分析によって大きく前進した。ⅱ「中国詩文からの表現の摂取を考察する――奈良朝知識人の教養の基盤となった『千字文』などの初学書やほぼ同時代の初唐詩文などの利用の跡を具体的に探る」については、単なる識字教科書というにとどまらない、『千字文』の通俗的佳句集としての性格を明らかにした点で、ほぼ達成への見通しが得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、Ⅰ【類歌・類句の再検討】Ⅱ【中国詩文からの摂取についての検討】 の2点を軸に進めるが、その上で、同じ教養基盤の上にたつ大伴池主作品との関係や、家持池主の共通の教養であった漢籍、たとえば初唐伝奇小説の『遊仙窟』などの俗書についての知識を検討することを、当初の計画どおり行っていく。
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Causes of Carryover |
アルバイトによる調査には限界があるため、自力で調査・整理を行った。 近畿圏での発表・講演で旅費や宿泊費が生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
中国文学関連の書籍購入。
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