2019 Fiscal Year Annual Research Report
Fundamental Studies on Literary Matters and Cultural Exchange of Merchants in Early Modern Period Kyoto: Focusing on Waka and the Life of Kashiwabara Shoju-ni
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26370237
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
田中 仁 鳥取大学, 地域学部, 名誉教授 (80217067)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近世京都商家 / 文事 / 柏原正寿尼 / 伴蒿蹊 / 和歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)江戸から昭和初期の柏原家の人々の手許品を保管している乾蔵の調査と、(2)伴蒿蹊点柏原正寿尼詠草にみえる蒿蹊の雅俗論の分析を行った。(1)で目指したのは乾蔵の悉皆調査である。2018年度まで、柏原家・柏屋に伝わってきた文書、書籍が収められている蔵(大蔵)の資料を主な対象として調査・研究してきた。しかし、文政から昭和の間に作成された幾種類かの蔵書目録、蔵品目録に記載されている資料の現物が見いだせないという事例が少なからずあった。そこで、本年度は、洛東遺芳館の支援を得て、調査の遅れていた乾蔵の悉皆調査に着手した。計画どおりなら、本年度中に調査と目録作成を完了するはずであったが、洛東遺芳館の諸事情により遅延し、さらにとりまとめを予定していた二月、三月の京都出張が不可能になったため、約八割程度の調査にとどまっている。本研究にかかわる資料としては、伴蒿蹊の歌稿、書簡、蒿蹊点正寿尼詠草などが見いだされた。(2)は、柏原正寿尼の文事の調査により、伴蒿蹊への師事が期間も長く、また影響も予想以上に大きかったことがわかった。そこで、乾蔵調査によって新たに見いだされた蒿蹊点詠草も加え、課題を蒿蹊の雅俗論のうち、「俗」論にしぼって分析を試みた。蒿蹊の批言(正寿尼詠草に書き入れられた批評の言葉)には、同時代の歌人の批言には普通に見られる「俗意」という評語が見えないことを手がかりに、蒿蹊が、正寿尼の「常の心」(日常生活における心意)における「俗」が生み出す和歌における「俗意」を、否定し排斥するのではなく、それがどのような和歌の欠陥として表れているかを具体的に指摘していること、また、加藤千蔭の批言と比較して、蒿蹊は和歌の欠陥のうち「歌材の俗」と「歌意の俗」に対して寛容であったことを明らかにした。こうした内容をまとめて、「伴蒿蹊の詠歌指導における「俗」」として、『国語国文』に投稿中である。
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