2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370239
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久保田 啓一 広島大学, 文学研究科, 教授 (80186452)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 成島家 / 成島信遍 / 成島司直 / 冷泉為村 / 桜町院 / 江戸幕府 / 文化圏 / 幕臣 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、まず江戸冷泉派歌壇の中心であった成島信遍の伝記研究を進めた。寛保元年の信遍の事績としては、竹千代(後の十代将軍家治)の元服祝賀の後の江戸湾での舟遊びを描いた和文「海づと」の執筆や、冷泉為久との交流、藤巻教真の教えに基づく新田開発法の提唱など、文学活動に限定されない、まさに幕臣文人としての幅広い活動の跡を辿ることができた。江戸時代の文学が広く人文社会科学全般を基盤としていたことが明瞭に見て取れる。 次に、江戸幕臣文壇の成果の一つである大田南畝編の和文集『ひともと草』の詳細な注釈を発表した。酒月米人は大田南畝周辺の狂歌師であるが、狂歌師が幕臣と共通の文化圏に位置し、慣れないながらも和文を綴るという行為に喜びを見出し、雅文壇の一角にあることを楽しんでいる様子が文面から伝わってくる。 資料収集としては、成島信遍の曾孫に当たる成島司直の著述を中心に収集し、伝本相互の影響関係などを考究する足掛かりを得た。特に2度にわたる日光社参随行が生み出した2編の紀行文を分析することで、幕臣にとっての日光行きの持つ意義などが今後解明されていくことを期している。 なお、冷泉為村と密接な関係のあった桜町院の資料調査にも従事したが、これに関する研究成果は次年度に公表される予定である。また、前年度からの延長で、福井藩・柳川藩やその他の大名家を包括する田安文化圏という観点から幕末の歌壇を見ようとする講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成島信遍の伝記研究と幕臣文化圏の和歌・和文の表現研究が中心をなすが、そのいずれにおいても順調に成果を発表できている。さらに、桜町院との関係において新たな情報の収集ができたことで、見通しが大きく開けてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
成島家歴代の著作の収集と整理に全力をあげて取り組むとともに、『ひともと草』を中心とする幕臣文化の雅文芸研究にも拍車をかけて取り組む。
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Causes of Carryover |
平成28年4月より部局長に就任し、平日はほぼ大学で待機をして職務に従事する必要が生じ、資料の調査収集にかける時間があまり取れなかったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
短期間の出張でまとまった資料収集ができるように工夫し、大量の資料複写を依頼することで研究の実を上げるよう努める。次年度使用額のほとんどは文献複写に当てる予定である。
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