2015 Fiscal Year Research-status Report
地方青年結社における「文」の実践に関する社会史研究
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26370245
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
木戸 雄一 大妻女子大学, 文学部, 准教授 (30390587)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国文学 / 近・現代文学 / コミュニケーション / 出版 / 地方史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、地方青年結社の「文」に関する資料所在調査と資料収集を前年度に引き続き行った。また、収集した資料の具体的検討を開始し、その成果の一部を発表した。 地方青年関係資料としては、(1)早稲田大学中央図書館所蔵『東洋文学』『詞海』の調査、(2)明治新聞雑誌文庫所蔵の『同楽』『文海』『黄薇余芳』『文明之児童』『をしゑ』『風流之友』『松浪草紙』『無逸』『総房』の調査、(3)八戸市立図書館所蔵『奥南青少年』『奥乃華』の調査、(4)函館市立中央図書館所蔵『函館新聞』の青年結社関係記事の調査、(5)福島県立図書館所蔵『愛菫遺稿』の調査、(6)岡山県立図書館所蔵『白虹』『血汐』『星光』『筆戦誌』『文華』『進歩』の調査、(7)会津若松市立会津図書館所蔵菊池研介関係資料および『会津日報』掲載記事の調査、(8)『日露戦争実記』『ハガキ文学』の入手および調査を行った。 地方文学青年の動向については、『交誼之魁』と雑誌交換を行い交流のあった青年雑誌の調査を行い、地方青年の交際を前面に掲げる投稿文章雑誌について考察した。また、硯友社周辺の雑誌である『詞海』と交流があった『東洋文学』と、さらに『東洋文学』と交流があった雑誌の調査を行い、硯友社のような非政治的結社と見なされる中央の文学結社と、地方で文学および社会活動をしている青年結社との関連について考察した。また、交際に必要な基本的リテラシーである書簡の実態について調査研究を進めた。 地方文学結社の活動実態の研究としては、会津の「文学攻究会」資料のうち『愛菫遺稿』上冊の翻刻を行い、解題を付して「明治期地方文学資料の翻刻と解題(一)――福島県喜多方市「文学攻究会」資料・『愛菫遺稿』上――」(『大妻女子大学紀要―文系―』第48号、平成28年3月)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、前年度に引き続き全国に埋もれている回覧雑誌や地方雑誌を中心とした資料を発掘調査するとともに、それらの資料の具体的検討に入ることを計画していた。 資料の発掘調査は順調に進んでおり、さらに調査を要する多くの資料の所在が明らかになってきているが、時間と旅費の関係でそのすべてを調査することはかなわなかった。しかし、その中でも岡山県の資料の豊富さには目をみはるものがあった。また、八戸市には八戸青年会の傘下のみならず、青年会に批判的なグループ、また学校生徒や旧華族の子弟まで、幅広く回覧誌活動が行われていたことが、前年度および今年度の調査で明らかとなった。さらに、会津若松では『会津日報』に地方青年の文章活動記事が多数掲載されていることが確認できた。 資料の具体的検討については、まず前年度翻刻できなかった会津の「文学攻究会」資料のうち、『愛菫遺稿』上冊の翻刻と解題を発表した。その他の資料の翻刻作業も進んでいる。『愛菫遺稿』を編んだ菊池研介は会津郷土史研究の草分け的な存在であり、日露戦争に従軍した後、小学校教員、在郷軍人会分会長などの地位にあった人物である。彼が1900年代に地域で文章会活動を行い「文学攻究会」を起ち上げたことの意義を考察し、また、大正期にそれを在郷軍人会分会長、郷土史家として回顧的に意味づけ直す道程は、地方文学青年のひとつの典型としてとらえることができると考えている。 『交誼之魁』『東洋文学』『詞海』の考察を行うことで、地方青年が中央の投稿雑誌や文学雑誌をどのように認識し、利用していたのかをとらえるべく研究を進めた。「文学同志会」については今のところ主宰者大月隆の伝記的調査で不明な点が多い。青年結社内外における交際の手段としての書簡に関する資料の収集と分析を開始した。 以上の点から、平成27年度の研究計画は概ね達成できたと認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は前年度までの研究をふまえて成果発表を行う。 会津の「文学攻究会」資料の翻刻を引き続き行い、『愛菫遺稿』下冊の翻刻と発表を目指す。発表媒体は本務校の紀要を予定している。さらに、「文学攻究会」の活動内容についての論文を発表する。ただし、舩城家所蔵資料および菊地家所蔵資料は、その処遇が現在流動的になってきているため、翻刻を本研究の期間内に発表することは難しい情勢になった。 文学青年結社間の交際と文章観、文学観の交渉についても研究をまとめる。具体的には、『交誼之魁』『東洋文学』についての論文、さらに、青年間の書簡を使った言語活動についての論文、『地方文芸史』の文学観についての論文を執筆する。岡山県および鳥取県の文学結社の活動と相互交流についても補足的な調査を行い、その実態についてまとめたい。 「文学同志会」の活動内容についての論文をまとめる。これは前年度予定されていた主宰者の伝記的調査で十分な情報が得られなかったため、今年度はあらためて研究方針に若干の変更を加えて分析に注力したい。主宰者大月隆が仏教系の教育を受けた人物であることはわかったが、今後は井上円了の活動などと比較し、その啓蒙的活動を「文」の修練によって行おうとした点に着目することで、1900年代的な特質が見出せるのではないかと考えている。また、『女子文壇』の「誌友会」記事から、「文学同志会」刊行書籍の受容に関する情報が得られており、引き続き他の投稿雑誌などからも情報を集めることで、同会の読者に関する分析も進めたい。 方言矯正と地方青年結社の「文」については、弘前市立図書館の資料を中心に調査する予定であったが、八戸青年会資料、会津「文学攻究会」資料および、明治新聞雑誌文庫所蔵の各地方雑誌で分析可能と判断した。このテーマについても分析を進め、論文をまとめたい。
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