2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370259
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
伊藤 善隆 立正大学, 文学部, 准教授 (30287940)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近世文学 / 俳諧 |
Outline of Annual Research Achievements |
「俳諧の手紙文化」について、「『俳諧手鑑 ふぐるま集』に見る近世俳人の手紙文化」(『立正大学文学部論叢』149)を発表した。これは、俳諧人名録や俳人番付の存在を視野に収めつつ、近世後期に刊行された俳人の手紙文例集に検討を加え、当時の俳人たちの交友関係のあり方について論じたものである。 「俳諧の伝書文化」については、「翻刻・手錢記念館所蔵俳諧伝書(四)―手錢記念館所蔵俳諧資料(八)―」(『湘北紀要』38)、「雲裡坊著『答問書』」(『湘北紀要』38)を発表した。前者は島根県出雲市大社町の手錢記念館所蔵『俳諧根本式』の翻刻、後者は支考の門人で無名庵五世となった杉夫(雲裡)の伝書の翻刻である。 「俳諧の批点文化」について、「出雲俳壇史の中の大社俳壇の人々」(いずも財団公開講座)では、手錢記念館に所蔵される暮句チラシに注目し、近世後期の出雲・伯耆の俳人たちが、自分たちが発起した句合わせの「代選」を京都の宗匠に依頼していたことを指摘。「俳諧史上の其角の位置」(芭蕉記念館冬季文学講習会)では、都市俳諧系の点巻・点帖・点印について紹介した。 さらに「椎の本花叔編『椎のもと』―手錢記念館所蔵俳諧資料(七)―」(『山陰研究』9)では、近世後期の芭蕉顕彰の実態や出雲俳人たちの人的ネットワークを知る上で重要な句集を翻刻し、「蒼キュウ発句「我たてる」の解釈をめぐって」(『立正大学国語国文』55)では、近世後期の宗匠の画賛の解釈とその伝播について検討を加えた。他に、近世中期に地方俳人たちとのネットワークを築いて蕉風復興運動を推進した蝶夢に関して、「雲橋社と蝶夢」(日本図書館文化史研究会2016年度研究集会シンポジウム)を発表した。以上は、本科研の研究目的である「人を結びつける文化」としての近世俳諧の解明に重要な考察や資料紹介である。なお資料の収集と研究の遂行にあたり、稲葉有祐氏の協力・助言を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「俳諧の手紙文化」については、「『俳諧手鑑 ふぐるま集』に見る近世俳人の手紙文化」(『立正大学文学部論叢』149)によって、本研究にとって大きな課題であった『俳諧手鑑 ふぐるま集』の分析に一応の区切りをつけることができた。 つぎに「俳諧の伝書文化」についてだが、これまで調査を進めてきた手錢記念館所蔵の伝書は、その多くが去来系の百蘿によるものであったため、美濃派に対する批判を多く含んでいた。それに対し、今年度は「雲裡坊著『答問書』」(『湘北紀要』38)によって美濃派系俳人の伝書を調査することができた。これにより、非美濃派と美濃派の両者の伝書の内容を相対化できる環境が整いつつある。また、併せて関連する『椎のもと』(椎の本花叔編)他の俳書についても、適宜内容の検討を実施することができた。 また「俳諧の批点文化」については、「出雲俳壇史の中の大社俳壇の人々」(いずも財団公開講座)で手錢記念館に所蔵される暮句チラシの内容を検討したことが、三都の俳人と地方俳人との関係にあらためて注目するきっかけとなった。同時に、前年度に引き続き、松生(梅左)編『梅のしるべ』(文政11年)、梅左編『松のしをり』(天保9年)、梅左編『竹のしげり』(天保13年)、楓窓編『俳諧雪月花』(弘化4年)、大年編『俳諧種瓢』(嘉永6年)の各書に記載される俳人のデータ整理を進めた。また、上記に関わる資料の収集にあたり、とくに山崎文庫(大阪府立大学)と柿衞文庫への出張調査を行ったことで、多くの知見を得ることができた。 なお「出雲俳壇史の中の大社俳壇の人々」を発表したことで、出雲(松江・大社)地域における俳諧活動を具体例として、これまで得られた「手紙文化」「伝書文化」「批点文化」に関する知見を整理することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究では、とくに近世中期から後期にかけての俳人のコミュニケーションのあり方の変化について、具体的に明らかにし得たと考える。 その結果、近世中期に盛んだった都市系俳諧(其角系・嵐雪系など)と地方系俳諧(美濃派・伊勢派)が、近世後期になるとしだいに衰え、やがて月並句合に取って替わられていく様相を、かなり具体的に明らかにすることができるという見通しを持つようになった。その見通しを具体化するためには、既存の研究が手薄である美濃派についても、今後は積極的に調査検討を進めていくことが重要である。 以上のような問題意識の発展は、本研究の目的である「俳諧文化」という視点の有効性を裏付ける成果である。「手紙文化」「伝書文化」「批点文化」のいずれにおいても、調査対象を広げて検討を推進していくことが必要だが、とくにこの三者の文学史的展開が、直接的に俳壇や興行方法の変化に結びついている点に注目したい。最終年度は、とくにその問題に集中して成果を上げる必要があると考える。
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Causes of Carryover |
本研究では「俳諧点印データベース(仮称)」の作成を予定している。そのシステム構築を専門の業者に依頼する予定であるが、今年度は適切な業者や作業の進め方を検討している段階であり、まだ具体的に支払が生じる段階になかったため、支払が生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度、作業の進展に伴い、上記システム構築を依頼する。その際に、予算から支出することになる。なお、データベースの機能としては、宗匠の名前を検索すると、その宗匠の点印の画像が表示されるものを企図している。収録する対象としては、本研究で主な調査対象の一つとした、松生(梅左)編『梅のしるべ』(文政11年)、梅左編『松のしをり』(天保9年)、梅左編『竹のしげり』(天保13年)等に記載される俳人の点印を予定している。
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