2015 Fiscal Year Research-status Report
〈長い18世紀〉の英語演劇における兄弟像の社会・政治的研究
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26370266
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岩田 美喜 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50361051)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 長い18世紀 / 演劇研究 / 兄弟表象 / アイルランド / 視覚文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、〈長い18世紀〉の英国およびアイルランド演劇における兄弟表象を渉猟することで、同時期のエピステーメーの変化と演劇との密接な関係を明らかにせんとするものであり、その性格上、個人研究としては広範な文献や上演資料に当たる必要がある。そのため、研究計画の2年目に当たる当該年度においては、国内を中心とした成果発表を行うと同時に、夏季に英国へ2週間渡航し、資料調査を行った。その主なものは、ケンブリッジ大学図書館における文献資料調査とヴィクトリア&アルバート美術館に属する「英国国立上演映像アーカイブ」の調査である。これらの資料をもとに、当該研究者が2015年度中に行った口頭の成果発表は1本で、完成させた論文は2本(英語論文と日本語論文が各1本)であるが、このほかに採用が決定した査読付論文が1本、執筆中の論文が2本(いずれも査読付英語論文)と単著の執筆を進めている。 当該年度の研究実績の特徴は、〈長い18世紀〉の後半に焦点を当て、19世紀初頭の演劇について集中的に研究を行ったことである。例えば、上記の日本語論文では、チャールズ・マチュリンによる芝居『バートラム』(1816)を、ジャコバン主義だと痛烈に批判したS・T・コールリッジの解釈には、コールリッジ自身の手による兄弟が骨肉相争う悲劇『悔恨』(1813)へのパリノード的な要素があったことを指摘し、マチュリン自身が作品に込めた宗教的党派性(カルヴァン主義的国教会)との間には、決定的なズレがあったことを論じている。これらの芝居は、これまでのイギリス演劇研究では長らく等閑視されてきたものであり、本研究課題の問題提起によって初めて、小説家や詩人としてのみ知られてきたマチュリンやコールリッジによる演劇の重要性が、テーマ性を持って明らかにされている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究の進捗状況は、おおむね順調に進展しているといえる。当該年度に発表した論文2本は、最終年度に発表を予定している単著の下敷きとなる予定であり、最終的な実績への見通しも立っているからである。ただし本研究者は、当該年度の途中で、本務校が新設するグローバル日本学大学院のプロジェクトに関わることになったため、予想外の業務が加わったが、これが大きな研究推進の障害になったとは今の所考えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進展方策としては、当研究課題の最終的な目標である単著の執筆に集中的に取り組む予定である。これまでに引き続き、口頭発表や論文のかたちで研究成果を個別に発表するとともに、これまで個別に論文として発表してきた実績を一冊の本にまとめ直す作業に入りたい。 ただし、最後の段階まで資料調査の実施は必要になると思われるので、夏季休暇などを上手に利用して、調査と執筆をバランスよく進めていきたい。
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Research Products
(3 results)