2015 Fiscal Year Research-status Report
メアリ・ウルストンクラフトに見られるピクチャレスク
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26370267
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石幡 直樹 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30125497)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ウルストンクラフト / 女性論 / ピクチャレスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はウルストンクラフトの『北欧紀行』における、女性描写と自然描写に見られる彼女の女権拡張論の展開と変遷を分析した。 同書には、抑圧されている北欧女性の境遇だけではなく、知識と道徳の欠如、服飾への関心に潜む虚栄心、慣習の悪弊、女性と社会の進歩の必要性、美貌とその衰えの早さなどについての記述が旅程の進行に沿って日誌形式で記録されている。それらは他の著述家の文章や論理を批判的に検証しながら自らの論述を構成していく『擁護』とは一線を画して、実証的な観察を日を追って記録し考察を進めている。したがって断片的な推論とならざるを得ないのだが、一方ではそのことによって彼女の思索の過程をより直裁に窺い知ることもできる。 『北欧紀行』は北欧の自然や社会の紹介とそれらにまつわる省察であると共に、彼女の自伝であり内省の物語でもある。その物語の「小さな主人公」であるウルストンクラフトは、自らが抑圧に喘ぎ苦悩する女性の表象として「背徳に走り遅きに失しながらも、男性は裏切るということを女性が悟ったときに起きること」を描いた。その意味では、この旅行記は自伝であると同時に私小説であり、その舞台となった荒涼たる北欧の自然は寓意に満ちた実景となる。 個人的な当惑や逡巡を見せ、『擁護』で先鞭をつけた女性の権利拡張論が再吟味されて内心の吐露と共に語られる同書は、書物を積み重ねた机上での狂想曲のような女権拡張論ではなく、実際の女性観察と描写から導き出された女性への親密な情愛にあふれた実地の女性論である。読者が親近感を覚え、この旅行記が好評を博した理由がそこにあることは、ウルストンクラフトが親愛の情を込めて盟友として描写した北欧の女性たちの姿を見ても明らかだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はウルストンクラフトの『北欧紀行』における、女性描写と自然描写に見られる彼女の女権拡張論の展開と変遷を分析した。 同書には、男性中心の考え方が支配的な時代に、先進国である英国を旅立って文化発展途上の北方三国へ向かった彼女が目の当たりにした女性の姿と、女性の地位の向上と権利の確立に関する思索が多く記されている。この経験が彼女の女性論の深化に大いに影響を与えたことを論文「ウルストンクラフトの見た北欧の女性たち」として『国際文化研究科論集』第23号(2015年12月、東北大学大学院国際文化研究科)に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降は、26年度と27年度の研究計画・方法を踏襲して研究をさらに進展させる。これまで同様に、関連著作や資料の分析と考察が主な研究方法である。また、国内・国外に資料収集を目的とした出張を計画している。
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Causes of Carryover |
資料・物品購入が予想より少なかった。資料整理の人件費・謝金の必要が生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度以降の研究において、出張費や物品費で使用する計画である。
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