2016 Fiscal Year Annual Research Report
"Picturesque" in the Writings of Mary Wollstonecraft
Project/Area Number |
26370267
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石幡 直樹 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (30125497)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ウルストンクラフト / ピクチャレスク / 進歩 / 女権論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ウルストンクラフトの著作に見られる「ピクチャレスク」(picturesque)という当時流行した用語を検証し、自然美の発見と受容彼女が果たした役割を解明し、自然美観照が彼女の進歩史観や女性解放の理念の形成にどのように寄与したのかを探った。当時の「ピクチャレスク」という審美基準の成立と普及の様相の実例を検証し、それに加えて、女権論者ウルストンクラフト自身の風景論の視点を解明し、それが彼女の自然観ひいては世界観や歴史観とどのような関わりを持つかを解明した。ウルストンクラフトは『女性の権利の擁護』(A Vindication of the Rights of Woman, 1792)において、理性の教育を通して女性も合理的精神を持つべきであると主張して、感性崇拝(cult of sensibility)の批判を展開した。未開状態から文明社会への「進歩」は、豊かで不安のない生活と高度な精神活動による文化を生み出す。しかし、『北欧紀行』に見られるように、スウェーデンやデンマークの自然と接したことで、彼女は、単純な進歩史観には疑問を呈するようになる。その状況で、ウルストンクラフトが見せる、感性と想像力に立脚する「ピクチャレスク」を媒介とした風景美称讃は、近代社会の成立と自らの女性としての成長とを重ね合わせつつ、「進歩」の功罪を問い直すだけの懐の深い思索を重ねたことの証左であることが分かった。これによって、ラディカルな女権論者としてのウルストンクラフト像に新たな側面から光をあてることができた。
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