2016 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義のグローバルな多様性――ヨーロッパを超えた継承と変容
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26370270
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
アルヴィ なほ子 (宮本なほ子) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20313174)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イギリス・ロマン主義 / コウルリッジ / サウジー / へマンズ / ボウルズ / 夏目漱石 / 島崎藤村 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀後半から19世紀前半の様々な「他文化」を国内外に抱え込んだイギリス・ロマン主義の文学が、他の地域の文化・文学に接触し、変容し、新しい形態を生み出す過程を、グローバリゼーションの一つの形態と捉え、文学空間の中で詩人(小説家)と後代の詩人(小説家)の関係において考察される「影響」の問題を、文学空間お外部へと開いて総合的に考察する試みである。 本年度は、2つの問題に焦点をあてた。1つは、1798年というイギリス・ロマン主義文学の始まりとされる年に、ナポレオン戦争の方向を決定づけたナイルの海戦がアブキール湾で行われたことに注目し、イギリスとフランスの戦争をイギリス・ロマン派詩人がどのように文学化したか、イギリス海軍資料、フランス側の資料、イギリス・ロマン派詩人の詩、散文作品、ネルソンの伝記などを検証して考察した。イギリス・ロマン派のナイルの海戦の文学的な再構築、その19世紀後半、20世紀での受容の変化、イギリス、オーストラリアの20世紀、21世紀の歴史小説でこの問題がどのように扱われるかを考察した。もう1つは、日本の明治期の西洋文明の導入の中で、文学の分野での英文学、特にイギリス・ロマン主義の影響関係を島崎藤村と夏目漱石を中心に考察した。 第一の点については、9月に関西コールリッジ研究会での特別講演「風に聞け――ナイルの海戦とイギリス・ロマン派詩人」として発表し、「「風に聞け」――ナイルの海戦とイギリス・ロマン派詩人」(『ODYSSEUS』[東京大学大学院総合文化地域文化研究専攻紀要] 21 (2016): 57-78)としてまとめた。第二の点については、英語論文に纏め、Palgrave社から出る論文集へ投稿した(受理済み)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナイルの海戦に見られる喪失の受容と対立の構図に文学がいかに対応したかを当時の文学作品から21世紀のオーストラリアの歴史小説、映画までを視野に口頭発表し、論文に纏め、また、20世紀初期の英文学が制度として確立しようとしていた時期のイングランドの状況と日本との関係、国文学へのイギリス・ロマン派の影響を考察することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
イギリス・ロマン主義の文学の他地域での受容に関する研究をさらに進める。平成28年度の研究を踏まえて、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)への影響を中心に研究を進め、最終年度であるので、研究を纏める。
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Causes of Carryover |
平成28年度に予定していた海外調査を、研究の新しい方向性が見えたために国内調査を優先させて平成29年度にするように計画を変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に予定していた海外調査を平成29年度に行うことで、平成29年度に予定していた海外調査と合わせて、集中的に効率を上げて調査を行うことが可能になる。5月から約2ヶ月、10月から約2ヶ月、ニュージーランドを中心に調査、資料収集を行う予定である。
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