2015 Fiscal Year Research-status Report
コンピュータを使った『カンタベリー物語』Hg, El写本及び刊本の比較と分析
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26370278
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中尾 佳行 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10136153)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
地村 彰之 広島大学, 文学研究科, 教授 (00131409)
佐藤 健一 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (30284219)
川野 徳幸 広島大学, 平和科学研究センター, 教授 (30304463)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | Hg写本 / カンタベリー物語 / Hengwrt写本 / Ellesmere写本 / Adam Pinkhurst / パラレル・コンコーダンス / チョーサーのテクスト批評 / チョーサーの言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、コンピュータを利用し、『カンタベリー物語』について、2つの代表的な写本と2つの代表的な刊本を取り上げ、4つのテクストを対応させたコンコーダンスを作成し、チョーサーの言語研究及びtextual criticismに貢献することである。写本は、Hengwrt (以下、Hg)写本とEllesmere (以下、El)写本を、そして刊本は、Hg写本を忠実に反映したBlake (1980)とElを底本としたBenson (1987)を取り上げた。Hg写本は、Mooneyが同定した写字生Adam Pinkhurst、生前チョーサーが信頼していた写字生によるもので、現存する最も古い写本、チョーサーの原典に最も近いものである。El写本は同一写字生によって、より完成度の高いものに編集・整備されたものである。2写本と2刊本の散文テクスト、「メリベーの物語」と「教区司祭の物語」のパラレル・コンコーダンスを完成させた。4テクスト全行の語句を並置した索引と、Hg写本を起点としてそれからの異同部分のみをハイライトした索引を作成した。『カンタベリー物語』の4テクストが韻文及び散文両面において調査可能となった。研究成果の一部はこの7月10日~15日にロンドン大学で開催される「新チョーサー学会」で発表することが決定している。写本において、ソーン文字は、thに比べ一字ですむ形で、散文に散見された。散文において短いスペリングが多用され、書き取りのスペースを節約的に、文字をできる限りに1行に詰めている傾向が見て取れる。またヴァーギュールについても両写本で違いがみられ、その視覚化は統語、リズム、語の認知に関わる多様な機能があることも見えてきた。これは刊本では見られない当時の言語観を反映すると考えられる。写本と刊本での語彙と統語(法助動詞、非人称構文、語順等)の相違についても調査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
散文テクスト、「メリベーの物語」と教区司祭の話」の写本と刊本のパラレルコンコーダンス及び、類似点と相違点を同時的に表す索引は、完成することができた。しかし、この作業に時間を要したため、散文と韻文の双方を含む写本間及び刊本での相違点を、網羅的・体系的には扱うことができなかった。原点に最も近い写本Hgの刊本であるBlake(1980)はその重要度にも拘らず十分に活用されていない。その言語特徴のローデータは収集したが、統計的な分析が課題として残った。他方ベンソン版は、El写本のみでなく異写本にeclecticにも対応し、(ロビンソン版とは違って)積極的にHg写本を採用してもいる。ベンソン版がどこでEl写本ではなく、Hg写本を優先させたのか、その箇所の同定は部分的にしかできなかった。基礎作業的なデータ収集は概ね整ったが、その統計的な処理を含めた分析に課題が残った。
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Strategy for Future Research Activity |
4テクストの比較分析及び統計処理を研究分担者との協力作業を通して行い、チョーサーテクストの本文批評の専門家と意見交換するための出張、及び海外の学会を含む諸学会での発表を通して、課題点を漸次詰めていきたい。
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Causes of Carryover |
チョーサーの『カンタベリー物語』の散文作品「メリベーの話」と「教区司祭の話」に関する4テクスト、Hg写本、El写本、ブレーク版、ベンソン版のパラレルコンコーダンス及びその類似点と相違点を同時的に表す索引の作成に時間を要したため、その統計処理まで含めた分析が十分にできなかった。そのために予定していた学会発表と論文作成が整わず、当該助成金が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
助成金の残額は、今年度7月に予定されているロンドンで開催される「新チョーサー学会」に参加・発表するための経費の一部として使用したいと考えている。
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Research Products
(11 results)