2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義文学における「オリエント」の包摂と「ヨーロッパ」文学の創出
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26370279
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロマン主義 / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ロマン主義の詩人たちが新たなる「ヨーロッパ」文学の形成という視座から、近代ヨーロッパ文学の創出を模索したことを考察した。特にシェリーらに信奉された自由主義思想とヨーロッパという地理的空間との関係をダンテの『神曲』を通して考察し、ロマン派第二世代の詩人たちが目指した「ヨーロッパ」文学の意義を明らかにした。 イタリアの批評家ウーゴ・フォスコロによる批評に顕著なように、ダンテはヨーロッパ文学史の枠組みの中で捉えられ、ダンテの近代性は近代ヨーロッパ文学の創始をなすと考えられた。ダンテの近代性とは、コールリッジやシェリングが評価するように、詩人の自己とその内面的感情の表出に内在し、さらにその自己の感情と情熱の表出こそが『神曲』の全体的統一を支えていることであった。『神曲』において具現化される、こうした個人的自己と全体性、個別と普遍の共存は、国家間における国力の拮抗や思想の対立を宥和へと導き、普遍的理性によって連帯する個々人の平等な存在のあり方を示すものであった。ロマン派第二世代の詩人たちは、ダンテの詩が呈示する、個別と普遍との間を往還する知の循環を「ヨーロッパ」という地理的空間に応用し、そこで生み出される近代ヨーロッパ文学の可能性を模索したことを具体的に考察した。 本年度はまた、「オリエント」とロマン主義文学との関係を考察するために、明治の日本におけるキーツの詩の受容についての論考をまとめた。西洋の言説によって形成されたオリエントではなく、オリエントの場においていかに西洋が受容されたかという観点から「オリエント」の考察を行った。特に、日本の近代詩人たちが、中国由来の伝統的な美学的規範を捨象し、外界と自己という二分化された西洋的美学的視点の中で、詩人の内的世界が強い感情の発露とともに拡張し、外界とのダイナミックな融合を果たす場において、詩的「風景」を生み出すことを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ロマン主義文学とオリエントとの関係を考察した論文「風景の創出ー日本近代詩におけるキーツの影響」を北米ロマン派学会の国際大会Romantic Connections (於 東京大学、2014年6月15日)にて口頭発表をし、その論考が優秀な論文として評価され、欧米のロマン派研究において最新の研究内容と高いレベルを維持するRomantic Circlesという電子媒体の論説集に今後掲載される予定であり、初年度より、国際学会での発表、国際レベルの学術誌への論文投稿という成果は、計画をしていた達成度以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ロマン主義文学による「オリエント」包摂の過程について、本年度はオリエントを巡る当時の言説を綿密に捉えるためのテクスト、旅行記、文芸批評等の資料収集を実施したが、さらに具体的な考察を行うために、今後はこうした第一次資料の精読を行い、オリエントについての言説がどのように形成され、文学テクストにおいていかに表象されたかについて明らかにする。さらに、オリエントとロマン主義文学についての最新の研究動向を明らかにするために、批評論文等の資料収集と研究を行う予定である。 こうした研究の成果については、すでに採択された、イギリスロマン派学会の国際学会Romantic Imprints(於 カーディフ大学 2015年7月16日~19日)にて口頭発表を行い、国内外の学術誌で論文の刊行を行う予定である。
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