2015 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義文学における「オリエント」の包摂と「ヨーロッパ」文学の創出
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26370279
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
後藤 美映 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (20243850)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オリエント / ロマン主義文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究においては、以下の2点についての研究成果を得た。まず、昨年度より継続するオリエントの側における西洋文学の受容についての考察を深めた。特に明治時代の日本の詩歌において、イギリス・ロマン派の詩が受容された際に、当時の詩人たちは、漢文脈の中で涵養されてきた、風景の中に埋没する自己を、外界を歌うために自律した自己として立ち上げるという認識の変容を経験し、ロマン主義的な「風景」を成立させるに至ったことを明らかにした。すなわち、イギリス・ロマン主義文学と明治期の日本というオリエントの文学との相違は、漢文学と西洋文学の成り立ちの相違を反映し、自己と外界という二項対立構造についての認識や、社会と個人との関係という認識における相違であったことを明らかにした。 次に、イギリスの文学的伝統にイタリアの文学を移植するという、イギリス・ロマン派第二世代の詩人たちの保持した創造性について考察を深めた。彼らの創造性は、「イギリスらしさ」にとっての脅威となり得えたが、敢えて、汎ヨーロッパ的知の興隆を希求し、新しい近代ヨーロッパ文学の創出を図ったのである。特に、キーツの詩において、党派や国の美学的趣味の相違を超え、哲学的知を共有し、近代ヨーロッパ文学を立ち上げていくという理念は、当時の医学的知識に基づく、循環する感覚刺激と相互に作用する神経組織という身体空間と符号することになる。汎ヨーロッパ的知の哲学が医学的、身体的知の体系と交錯する時、全ての人間に黙約的備わった身体というリベラルな空間性と、循環する神経組織によって可能になる共感的コミュニケーションの力とが、革新的な創造性を生み出すことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度北米ロマン派学会の国際大会 Romantic Connections (於 東京大学)において口頭発表した論文が、欧米のロマン派研究を牽引する電子ジャーナルであるRomantic Circles に掲載されることが決定し、大きな成果を残すことができた。また、英国のロマン派学会の国際大会 Romantic Imprints (Cardiff University, 16 July)において、口頭発表を行い、国際学会での発表、国際レベルの学術誌での論文刊行という成果は、計画をしていた達成度以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、「オリエント」文学とロマン主義文学との関係、近代ヨーロッパ文学の創出といったテーマについての考察を行ってきたが、最終年度は、ロマン派文学における「オリエント」の包摂の在り方、またヨーロッパの内なる「オリエント」としてのイタリア文学の受容の在り方との関連性についての考察を行う予定である。そして、こうした研究の最終成果を、沖縄イギリス・ロマン派文学研究会と九州イギリス・ロマン派文学研究会の合同研究会にて発表し、それをもとに国内外の学術誌にて論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
海外発注していた洋図書の入荷の遅れが発生し、本年度支払う予定にしていた物品費の使用額に変更が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果発表のために学会発表を行う予定であり、そのための旅費と、論文執筆のための図書購入費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)