2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370289
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 紛争 / ネーション / 植民地 / 宗教 / ピース・プロセス / 芸術の効用 / 想像力 / 文化的伝統 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は論文を2本書き、口頭発表を1度行なった。 まず論文であるが、一つは北アイルランド詩人、シェイマス・ヒーニーの詩業全般に関わるもの、もう一つは「さらわれっ子」や「神隠し」とも呼ぶべき口承伝統について、方やアイルランド島に伝わる妖精譚やW.B.イェイツの詩、方や日本の東北に伝わる妖精譚や柳田国男の『遠野物語』を比較した論考である。また、口頭発表は、北アイルランドの和平プロセスの進展とそれによって変化するミューラルの現状について英語で行った。 本研究の最終目標は『北アイルランドの想像力』(仮題)という研究書の刊行であり、本年度は、出版に向けてこれまで書いてきた論考の修正、加筆のための補強的な作業を行った。その一つにArthur Woods著 From the Shankill to the Shenandoah、そしてChris Agee編のThe New North: Contemporary Poetry from Northern Ireland精読がある。 つぎに、現地調査についてであるが、本年度はベルファストではなくサラエヴォ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)とザグレブ(クロアチア)を訪ねた。理由の一つは、バルカン半島の紛争と北アイランドの紛争は、地域的特性など背景こそ違うが、共通点が多く、とりわけ宗派の相違が対立の根にあることが認められる点である。それを反映してか、サラエヴォ出身のチェリスト、ヴェドラン・スマイロヴィッチは、北アイルランド出身のシンガー、トミー・サンズとともに『サラエヴォ/ベルファスト』というCDを1999年に出版している。二人の芸術家の活動を通し、本研究課題の一つである、紛争と芸術の社会的役割が考察されよう。バルカン半島での現地調査は、北アイルランド研究と直接的には結びつかないが、北アイルランドの紛争を考える場合、そして、芸術の効用を考える場合、大いに示唆的で、実りの多いものだった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由は大きく2点ある。一点目は、論文、口頭発表とともに研究課題をめぐるものであるが、論考で取り上げた詩人がこれまでと同じくシェイマス・ヒーニーで、当初予定していたシェイマス・ディーン、あるいは、マイケル・ロングリーではない点である。二点目は、現地調査で、サラエヴォとザグレブを訪問し、今後の研究に幅と奥行きを与えたことはたしかだが、当初予定したベルファストなど北アイルランドの諸都市を調査することができなかった点である。
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Strategy for Future Research Activity |
北アイルランドの詩的想像力という研究テーマに沿って研究を進める。本年度は論文を三本書く予定である。 一つは復活祭蜂起の現在性について、ポピュラー・ヒストリーという民衆が伝える歴史という視点から検証する。1916年の出来事(史実)が、とくに北アイルランドのカトリック(特にアイルランドの南北統一を願う人々)にとってどのような意味を持つのか、ミューラルなどを通して考察したい。そのために2016年3月(復活祭蜂起100周年直前)にベルファストをはじめ北アイルランド諸都市の現地調査をしたい。 次に北アイルランド出身の現代詩人、シェイマス・ディーンを取り上げる論考である。当地の詩人を評価する場合、プロテスタントか、カトリックかという宗派の違いによって区別されがちである。その点、カトリックの生まれで、しかもデリーのボグサイドという、ナショナリストのなかでも強硬派であるリパブリカンの伝統の強い地区で生まれ育ったディーンの場合、カトリック的ないしアイルランド的伝統を強調されることが多かったが、私は彼のもう一方の面についても注目する。すなわち、彼が文芸評論家として、プロテスタントの文人たちのアイルランド文化に対する貢献を高く評価している点である。私はディーンの『アイルランド文学小史』を翻訳・出版したが、彼のプロテスタント評価の高さは注目に値する。本論では、北アイルランドの二重の伝統のなかで生まれ育った一文人の仕事を通し、当地の特殊性を照射したい。 三つ目はサラエヴォとベルファストというヨーロッパの二都市に20世紀後半に起こった紛争を取り上げた論考である。とくにサラエヴォ出身のチェリスト、ヴェドラン・スマイロヴィッチの活動を通し、紛争と芸術というテーマについて探求したい。
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Causes of Carryover |
2015年2月末から3月にかけての海外出張にて、出張費用の合計が当初の予定より3,735円下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費に充てたい。
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Research Products
(3 results)