2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370296
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
原田 範行 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90265778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 近代英文学 / 日本表象 / 好奇心(curiosity) / 言説空間 / 実録 / フィクション / 旅行記 / 坤與万国全図 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である平成26年度には、当初の計画通り、研究目的の第一、すなわち近代初期イギリス(1660年から1727年)の日本表象として既に書誌的情報のあるものの内容を吟味し、それを文化史的文脈の中で整理・体系化するという調査研究を、英国・大英図書館での調査などを含めて遂行した。その中で、カロンの『日本大王国史』(英訳は1663年)、モンタヌスの『日本誌』(英訳は1670年)、サルマナザールの『フォルモサ』(1704年)、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(第2部、1719年)、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』(1726年)、ケンペルの『日本誌』(1727年)などの主要作品の出版経緯とその形態、流布の状況を具体的に把握することができ、次年度以降の個別作家研究の基礎を固めることができた。これらの作品における日本表象を文化史的文脈に位置づける場合に留意すべきことは、そうした表象が帯びているフィクションとしての性格と実録としての性格が、どのような程度において混合し、そしてその混合の度合いがさらなる言説の流布にどのように影響したのか、という点である。目下のところ、研究代表者はこれを、当時の近代文明の進化を促すとともに小説等のフィクションに見られる想像力と創造力を拡げる「好奇心(curiosity)の発現」と捉え、両者をトータルに把握するという立場で文化史を構想し、研究発表や論文執筆をおこなっている。初年度のこうした調査研究の過程で、もう一つ大きな収穫であったのは、マテオリッチの「坤與万国全図」をはじめ、地図に見られる視覚表象の東西交流の詳細を確認できたことである。こうした地図には、当然のことながら、探検航海の成果として科学的に記載されている部分と想像に基づくフィクションが加えられている部分とが混在しているが、その状況こそ、上述の文化史構想の妥当性を適切に示すものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度に計画していた資料の調査と確認はほぼ終えることができた。これは国内でのデータベースを利用した予備調査とともに、英国・大英図書館での資料調査が順調に進んだことによる。主だった作品群の流布状況についても、大英図書館での資料調査の過程で、当時の定期刊行物などをある程度網羅的に確認することができ、次年度以降の研究の基礎を固めることができた。また、当時の地図の東西交流の実態(「坤與万国全図」「万国総界図」「万国人物図」など)については、当初の予定以上に、その系統調査や流布状況の調査を進めることができたので、これは次年度以降の研究の進捗にきわめて有効に働くものと考えられる。ただ、そうした資料調査が、やや予想以上に進行したことから、その成果を全体としてどのように扱い、体系化して公開していくかという点についてはなお検討すべき課題が残されており、そうした整理や公開については次年度に行うこととなった。これらの状況を勘案し、本研究は現在のところ、概ね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後も当初の実施計画通りに遂行していく予定である。すなわち研究二年目の平成27年度および三年目の平成28年度においては、研究初年度の総括をおこなうとともに、サルマナザール、デフォー、スウィフトの三人の個別作家の作品執筆の具体的経緯の検証を、日本表象の活用という観点から分析して行くことになる。研究二年目の平成27年度にあっては、当初の予定通り、海外での資料調査を中心に、その結果を整理・分析・統合する作業を実施する。幸い、初年度における資料の調査研究では予想以上の成果があり、これを今後十分に活用していくことができよう。また初年度に、いくぶん総括・体系化が遅れたこれらの調査研究成果の整理・公開については、当初より27年度に予定していた研究初年度の総括作業と合わせて十分に実現されるものと考えられる。研究四年目、五年目に実施予定の、文献資料の東西交流の実態調査についても、計画通り遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究実績にも記した通り、旅費支出を伴う資料の調査研究は予定通り進行し、またその成果は予定以上のものを得ることができたが、その結果として、この調査研究の成果の整理・体系化をはかる手法の検討に時間を要し、整理・体系化を進めるための人件費、成果公開のためのホームページ製作費、およびこうした研究に関連する図書の選定を当該年度内に終えることができなかったために、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度の研究成果の整理・体系化の方向性はすでに定まっており、27年度においてこれを実施すべく、当初は26年度に予定していた人件費の支出、ホームページの製作をすみやかに実施する予定である。また研究図書についても必要となる文献をすでに選定しており、27年度にその購入をすみやかに実施することが可能である。
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