2017 Fiscal Year Research-status Report
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26370296
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
原田 範行 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90265778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 近代英文学 / 日本表象 / 好奇心(curiosity) / 言説空間 / 実録 / フィクション / 旅行記 / 地図の東西交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究4年目にあたる平成29年度は、これまで3年間に蓄積してきた個別作家(サルマナザール、デフォー、スウィフト)についての基礎調査をまとめるとともに、そこになお残る課題を解決しつつ、当初の予定通り、当時の文献そのものの東西往来の実態を究明し、あわせて近代英文学における日本表象の文学史・文化史的意義を整理して平成30年度における総括のための準備をするという作業を中心におこなった。 基礎調査の結果、なお残っていた課題は、サルマナザールの伝記的詳細を明らかにするとともに、サルマナザールおよびデフォーの、特に蔵書資料リストの精度を高めることであった。サルマナザールの伝記的詳細については、大英図書館での同時代資料(特に『ジェントルマンズ・マガジン』や『ロンドン・マガジン』など)の包括的調査を進めた結果、外的資料によってではあるが、その後半生に至るまで不明箇所をある程度解決し、また同時代人による評価に関して、これまで指摘されていなかった諸点を明らかにすることができた。またデフォーの蔵書資料については、ハイデンライヒが1970年にまとめたデフォー没後の蔵書オークションのカタログを精査することで、ほぼその全容解明に至ることができた。 17世紀後半から18世紀初頭にかけての文献往来に関する実態解明については、日本においては主に長崎の貿易関係資料、イギリスにおいては、イギリスおよびオランダの貿易関係資料を総合的に調査することができ、当時の英語圏での日本表象が、必ずしも過去の記憶のみによるものではなく、ある程度、同時代的交流を前提としていたこと確認することができた。ただ、調査した資料はまだ部分的なものに留まる点が多く、この点は平成30年度において継続的に調査したい。 なお、平成29年度には、これまでの調査を論文等にまとめる機会があり、今後の総括的な考察の基礎にしたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、平成30年度に最終年度となるが、これまで概ね順調に進展していると判断できる。 当初の予定通り、本研究で特に注目すべき3人の作家(サルマナザール、デフォー、スウィフト)に関する伝記および蔵書資料調査については、既にほぼその作業を終えている。また、当時の文献や地図に関する東西交流についても、平成29年度には大きな進展をみた。さらにまた、平成29年度には、これまでの基礎調査をもとにした論文等をまとめる機会があり、これはイギリス近代における日本表象の文学史・文化史的意義を明らかにするという本研究の最終的な目標を先取りし、最終的な総括の基礎に据えられるものである。ただ、サルマナザールの蔵書資料や当時の貿易資料の包括的実態解明には、なお追加調査が必要となる。これは、サルマナザールの蔵書資料の場合、彼の執筆内容から想起される同時代文献を網羅的に調べる必要があるためであり、また、文献や地図に関する貿易資料については、商業的な記録と書誌的な状況(各版本の異本や改訂の状況など)を綿密に照合する必要があるためである。もっとも、こうした資料調査は、平成30年度における研究の総括を進める中で同時並行的におこなうことができるものであり、また、本研究の総括を行う際の海外研究者との情報交換の中でも新たな知見を得られる可能性が高い。したがって、研究計画の当初の予定を変更する必要はないと判断できる。なお平成30年度には、こうした追加資料調査の結果を総合的にまとめ、成果をウェッブ等にも公開したいと考えている。また平成30年度に実施予定の研究総括のシンポジウムや成果発表の論文執筆も、英語圏への研究成果の発信を含め、当初の計画通り、遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究の最終年度にあたり、当初の計画通り、海外の研究者との交流を進めながら研究の総括をし、研究成果を国内外に発信する予定である。なお、「現在までの進捗状況」に記した通り、サルマナザールの蔵書資料および17世紀後半から18世紀初頭にかけての文献や地図の東西交流の詳細については、なお追加調査を必要とするが、これは研究の総括を進めながら、同時並行的に遂行することで所期の目標を達成できると考えている。 日本表象の近代イギリス文学・文化史における意義については、実証的資料調査の成果とともに、研究の総括において綿密な考察をおこないたいと考えている。それは、近代英文学における小説という表現ジャンルの誕生や、18世紀イギリスおよびヨーロッパにおける人々の世界観、あるいは異文化交流への意識形成にも重要なかかわりを持っているからである。特に、本研究の1年目から3年目にかけて実施した、サルマナザールの『フォルモサ』、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(主に第2部)、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』における日本表象の意味についての考察は、個別作家研究のみならず近代英文学史そのものに再考を促すものであり、シンポジウムや論文発表においては、本研究での実証的資料調査の成果を存分に活用する予定である。 なお、『ガリヴァー旅行記』刊行の翌年に出版されたケンペルの『日本誌』(英訳版)については、本研究の対象を「近代英文学」と絞っているため、その全容解明は別の機会に譲る予定だが、本研究の調査を進める過程で、例えばケンペルの訪日に関する記事などは、ロンドンで刊行されていた小冊子や時事的記録の中にも散見することが判明した。ケンペルの訪日や将軍謁見などについても、英語圏の範囲内におけるその日本表象の意味を、本研究の総括に含めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた理由は二つある。一つは、旅費として、イギリスおよびオランダでの調査を念頭に置いて計画を立てたが、イギリスの主に大英図書館での調査の中でオランダの資料が十分に閲覧でき、またオランダの各種資料の情報公開が進んだことから、イギリスにおける調査滞在のみをもって十分に研究を遂行することができたので、使用予定額を下回ったことである。もう一つは、調査研究の結果を整理するなどの作業や研究成果公開のためのウェッブサイト制作を念頭におく人件費支出がなかったことである。これは研究代表者自身が、資料的精度を確かめつつ整理を行ったためそれに要する人件費が節減できたことと、研究成果のウェブサイト公開にあたっては、なお残る不明箇所を平成30年度に確認した上で、より正確な形での公開を考えたためである。 このウェッブサイトの公開については、既にある程度の準備を進めており、平成30年度には、総括シンポジウムなども含めて公開できる予定である。またそうした資料公開に伴う資料整理を平成30年度には行う予定で、すでに大学院生などにも打診済みである。したがって、次年度使用額は、平成30年度において、本来の研究計画を十分に達成するための必要不可欠な費用として使用することになる。
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Research Products
(8 results)