2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス・ロマン主義文学における公共圏――友愛共同体と印刷文化
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26370299
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
藤巻 明 立教大学, 文学部, 教授 (30238604)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イギリス・ロマン主義文学 / 公共圏 / 印刷文化 / 友愛共同体 / 作品生成過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年の研究期間の初年に当たる今年度は、3月に大英図書館への海外出張を行ない、研究実施計画の4点について、次のような結果を残した。 1. イギリス・ロマン主義時代の政治、社会の動き、海外進出の情況、出版界、世論、一般大衆の動向などの大きな流れを詳細に理解するために、Alex Benchimo、Gregory Dartなどによる最近の重要文献を閲読した。 2. イギリス・ロマン主義の代表的作家のうち、今年は湖水地方の詩人たちと(William Wordsworth, S. T. Coleridge)と深く交わった散文作家Charles Lambを軸として、まず、その手紙や伝記を読み、他の作家との交友関係を精査して、友情による作家同士の共同体構築が作品生成に大きな影響を与えたことを確認した。 3. 当時のロマン主義作家たちが青年期の相互交流で互いに刺激し合って創作を行ない、やがて投稿を行なったうちでも最も重要な文学雑誌London Magazineに掲載された記事を閲読し、投稿を通して公的な印刷文化の中で地歩を固めていく過程を検証した。特に、Lambの寄稿がやがて1823年に単行本Essays of Eliaとして出版される経緯を、友愛共同体からより公的な印刷共同体へと参入する発展の例として包括的な検証を行なった。 4. 本研究に着手する前の準備段階として、作家南條竹則氏と始めたEssays of Eliaの完訳詳註版作成の作業が予想以上の速度で進展し、今年度中に計画全体の半分に当たる2冊を国書刊行会より刊行した。翻訳を南條氏が担当し、本研究者は全体の約半分を占める註釈と、I上巻末に付したLambの伝記によって、友愛共同体から印刷共同体への発展過程を明示する形で、イギリス散文の頂点であるこの随筆のロマン主義文学における重要性を詳説し、作品生成の背後にある友愛共同体の存在を意識することによって読解の可能性がさらに広がることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究成果の発表は、今年度の終わりから徐々に行なうつもりだったが、準備段階での作業が予想以上の速度で進行したために、本研究の一つの目的だったチャールズ・ラム『エリア随筆』の完訳詳註版のうち半分に当たる2冊を南條竹則氏との共同作業によって出版することができた。また、年度の後半には、ロマン主義男性作家の友愛共同体という枠を超えて、当時の女性詩人たちとの相互関係も考察の対象とする視野の広がりを獲得した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続きLambに焦点を合わせて、友愛共同体から印刷共同体への発展の過程についての考察をさらに深め、『エリア随筆』の後半に当たる続篇の雑誌掲載とその後単行本化される過程を詳細に研究した上で、南條氏との共同作業で残りの2冊の出版を目指す。2014年度末のイギリス出張によって、大英図書館で豊富な文献に当たるなどして、その準備作業を着々と進めてはいるものの、南條氏の訳文のできあがりを待つという共同作業ならではの事情もあり、2015年度中の成果公表が可能かどうかは微妙だが微力を尽くしたい。また、今年度後半に浮上してきたロマン主義女性詩人の存在についても、この時期における女性作家の数的増加という社会現象そのものだけでなく、男性作家たちとの間に友愛共同体が存在していたのかどうかという問題にも目を向け、いっそう広くこの時代の作家たちの間の相互関係とそこから生まれる文学作品の力学を探究してゆく。。
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Research Products
(3 results)