2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス社会における群集の変容とモダニズム小説の勃興
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26370304
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 関西学院大学, 商学部, 教授 (10322976)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 英米文学 / イギリス小説 / 群集 / 労働運動 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である本年度は、Gustave Le Bonなどを初めとする19世紀末から20世紀初頭にかけての群集心理学を関心の中心に据え、その原典調査や、関連する二次的研究文献の収集・調査に注力した。その際、Le Bonの主著であるThe Crowd: A Study of the Popular Mind (1896; 原典La psychologie des foules, 1895) と先行理論との相違に特に注目することによって、ジャーナリズム等の発展を経験した19世紀末において、「群集」の定義に変化が生じていることを見出した。これは、後述する小説の語りの理論化に大きく貢献する成果となった。また、1889年のロンドン港湾ストライキを中心にして、新聞等の一次資料や、関連する二次資料の収集・分析にも当たった。これらの収集した資料の一部はスキャニングし、キーワード検索が可能なPDFフォーマットに変換することで電子データベースを構築し、分析・管理作業における効率化を果たした。 また、並行して、Morris、Wells、Hardy、Conrad等の小説作品を調査対象とし、同時代のフィクションにおける群集表象の精査に当たった。本年度は特にThe Nigger of the “Narcissus”を中心的な研究対象とし、19世紀末における群集のあり方の変容と、初期モダニズムの発生・発展との関連について一定程度の理論構築を進めた。具体的には、作中に登場する船員たちが、船上で発生する暴動の集団的主体としてのあり様と、語り手によって言及される「良き群集」(“good crowd”)としてのあり様との間で揺れ動いていることに注目し、その背後に1889年の港湾ストライキを経た群集の社会的様態の変容を見据えながら、テクストの特徴である複層的な語りの発生プロセスについて解明した。上記は論文“The Crowd and the City in The Nigger of the ‘Narcissus’”(仮題)としてすでに3分の2ほど執筆を進めており、次年度前半に海外の査読誌に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、群集関連の一次・二次資料の収集・分析を順調に進めている。また、小説テクストの分析にも着手し、一定程度の理論構築を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度については、当初の予定通り、群集が当時のメディアにおいてどのように提示されていたかについて探るため、調査収集対象を新聞や定期刊行物へと拡大していく。19世紀から20世紀初頭にかけての新聞記事に関しては、British LibraryのデータベースThe British Newspaper Archive (http://www.britishnewspaperarchive.co.uk) を利用する予定である。 小説テクストの分析については、引き続きMorris、Wells、Hardy、Conradによる作品を扱いながら、調査対象を中期ヴィクトリア朝の作品にも拡大していく予定である。特にDickens, Barnaby RudgeやGaskell, North and Southにおける、徒弟や工場労働者による暴動・ストライキの描写や、Arnold, Culture and Anarchyにおける文明論に焦点を当てたい。加えて、Wellsの手によるAnticipations of the Reaction of Mechanical and Scientific Progress upon Human Life and Thought (1901) や、A Modern Utopia (1905) などの、いわゆるユートピアを主題とした著作にも注目し、同じくユートピア物語であるMorris, News from Nowhereとの比較を主軸として、群集とユートピアをキーワードとした議論構築ができないか模索する。
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Causes of Carryover |
書籍代が当初予定していたよりも安価だったため、未使用額が生じた
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分助成金と合わせて書籍代等として使用する予定
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Research Products
(1 results)