2015 Fiscal Year Research-status Report
イギリス社会における群集の変容とモダニズム小説の勃興
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26370304
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 関西学院大学, 商学部, 教授 (10322976)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 英米文学 / イギリス小説 / 群集 / 労働運動 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き19世紀末~20世紀初頭の群集理論関連の一次・二次資料の収集・分析に当たるとともに、調査対象をヴィクトリア朝全般へと拡大し、より広い視野からイギリス社会における群集のあり方の変遷を辿った。同時に分析対象となる小説テクストに、Charles DickensやElizabeth Gaskellなどの前期ヴィクトリア朝作家による作品を加えながら、群集に対する社会的認識の変遷と、小説の内容面・形式面における変化との関連について、より系統的な理論化を目指した。 本年度の特記事項としては、群集をキーワードとして、19世紀イギリス小説と現代映画との連続性を立証できたことが挙げられる。これは、19世紀末の労働運動やメディアの発展を経て出現した群集観が、現代社会の基盤を形成しているという洞察につながる、重要な学術的意義を有した研究内容である。上記の成果は、論文「イギリスのゾンビ映画と19世紀小説における群集表象」において発表した。 加えて、商業主義の発展と初期モダニズム小説勃興との関連を探るため、「帆船と初期モダニズム小説:コンラッドと同時代作家におけるロマンス考」を日本コンラッド協会第2回全国大会のシンポジウムにて発表した。本発表では、本研究課題遂行において得られた労働運動と19世紀末の群集観との関連についての洞察が、重要な一部分を構成した。 前年度から執筆を継続した、The Nigger of the “Narcissus”におけるモダニズム的語りと当時の群集理論との関連についての論文(“Labour and Modern Crowds in The Nigger of the “Narcissus”に改題)は、議論に若干の修正の必要性を認めたため、執筆期間を延長し、本年度末に完成した。海外の査読誌への投稿に先だって、現在英文校閲を受けるなど準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
執筆を継続していたThe Nigger of the “Narcissus”論において、若干の議論修正の必要性を認めたため、執筆期間を延長した。また19世紀イギリス小説と現代映画との関連性についての議論を構築するため、もともと平成28年度にて遂行する予定だった研究課題を部分的に前倒しして実施した。今年度に予定していた課題については最終年度に繰り下げて実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、本年度において行ったDickensとGaskellの分析に加え、Matthew Arnoldの文明論や、William Morris、H. G. Wellsによる社会主義的ユートピア物語に注目し、19世紀における群集表象の変遷とモダニズムとの関連についての議論構築をする予定である。(当研究内容はもともと平成27年度に実施を予定していたものであるが、上記研究実績の概要にて述べたとおり研究計画を変更したため、次年度に繰り下げて実施する。) これに加え、Thomas Hardy, Jude the Obscureにおける群集表象についての分析、ならびに理論化を行う予定である。この小説では、主人公Judeが周囲との孤立を深めていく後半部分において、雑踏がひしめく祝祭の街や、大衆をターゲットとする新聞記事がたびたび登場し、その非共感性を介して彼の人生の悲劇性を効果的に強調する。教育改革を経て、労働者の「個」としての意識がより鮮明化しつつある時代において、「多」、すなわち群集がどのような役割を果たしているかに注目することによって、一見してリアリズムの特徴を抱えるHardyのテクストに、モダニズム的要素を見出す試みである。 関連する一次・二次資料の入手に際しては、新聞データベースの利用や、イギリスの図書館における資料収集活動を主な手段として想定している。
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Causes of Carryover |
本年度は研究遂行の必要上、当初の予定を変更して、19世紀における群集の変容が小説に対して及ぼした影響が、21世紀のフィクションにおいてどのように受け継がれてきているかについての理論化を先行させたため、予定していた資料調査を次年度に繰り下げた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
書籍の購入、新聞データベースの利用などによって使用する予定である。
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Research Products
(4 results)