2017 Fiscal Year Research-status Report
美的教育理念におけるS.T. コールリッジと密教思想との接点
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26370305
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
和氣 節子 神戸女学院大学, 文学部, 教授 (00248113)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共通感覚 / 想像力の遊び / 空海 真言密教 / コールリッジ 超越論哲学 / 美的教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題はコールリッジの美的教育理念にみられる密教思想的な要素を明らかにすることにある。平成29年度は、空海学会にて「S.T.コールリッジと真言密教との接点」と題して、また関西コールリッジ研究会においては「コールリッジの超越論の特徴:啓示宗教が示す喜びの伝達」に関する口頭発表を行った。 これらの発表では、コールリッジがカント的「共通感覚」(カント『判断力批判』、『人間学』)による「美的想像力の遊び」の重要性を説くように、空海も『理趣経』において、カント的「共通感覚」に基づき、内に向かい内在の神秘を捉える意識と、外に向かい超越の神秘を捉える感覚との相克が生み出す「遊び」、法界から差し込む驚嘆すべき力に身をゆだね、他者と繋がっていける「遊び」を、「一切無戯論如来」が理想的な喜びの体験として説いていることを示した。 「共通感覚」による対話はわれわれを私欲に対し「無関心disinterest」とさせ、「美しもの」との遊びを可能とする高次な道徳的感情を生む。そして、自己を超越した力による導きを信じ求める人々との、喜びに満ちた繋がりの構築を可能とする。原罪ゆえの「非社交的社交性」(カント)から自由となり、内在の神秘を信じる主観から、普遍的な喜びを生み出す他者との繋がりを構築する方法の修得を教育の目標としたところに、コールリッジのカント超越論に則した美的教育論にみられる密教思想にも通じる要素を見出せることを指摘できた、 次年度に予定する高等批評との繋がりを検討するにあたり、軸となるコールリッジと空海の超越論的思考を表す言葉を中心に集めることができた。特に「啓示宗教における喜びの創出」の観点から、コールリッジ「問い続ける魂の告白」『教会と国家』「生命論」と空海『理趣経』『秘密曼荼羅十住心論』を読めたことは有意義であったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学務と親の介護に予想外の時間がとられ、2つの口頭発表に基づく論文執筆や、30年度夏の国際学会参加への準備を断念せざるをえなくなった。しかし、信仰が約束する喜びの表現(内在と超越の神秘を捉えながら、驚嘆の真実が啓示されるときを持ち続ける喜びの養成のプロセス)の視点から、空海の『理趣経』とコールリッジの「問い続ける魂の告白」『教会と国家』「生命論」を分析できたことで論文執筆のためのアウトラインはたてることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの一連の研究結果から、「信じて待つ力」による、潜在能力の開花をコールリッジも空海も美的教育の目標に据えていることが分かってきた。29年度の二つの発表を論文としてまとめるにあたり、今年度は、空海が「大悲心」「勝義心」「大菩提心」にさらに「信心」を加え、真言密教にかかせない四種心を説いた『三摩耶戒序』と『性霊集「綜藝種智院式」』を読む予定。 コールリッジは、「信じる意志の力」を信仰の要としたが、彼の超越論は空海同様、アプリオリな信じる力を原点に構築されているがために、カント的「共通感覚」による潜在能力の開花が教育の理想に位置づけられていることを指摘していきたい。本研究の最終年度は、偉大な力の啓示を「信じる」者どおしの、「共通感覚」による対話に関し、コールリッジの言葉を彼の詩作品、『文学的自叙伝』『省察の助け』『生命論』を中心に再読ことで、一連の研究をまとめていく。ドイツ高等批評との関連も「信じる力」の観点からFeuerbach, The Essence of Christianity (tr. George Eliot)を、石川輝吉「カント信じるための哲学」も参考にしながら読んでいく。
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Causes of Carryover |
4月より文学部長となったことで学務に予想外の時間を費やすことになり、加えて認定5となった母親の介護、長男のクラブ中の足と股関節の怪我もあり、研究時間をまとめてとることができなくなった。そのため夏の国際学会参加や資料収集を断念し、次年度の使用額が発生した。次年度は今年度の2件の口頭発表を論文にするためと、2019年度国際学会参加準備のための資料収集を予定。
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