2014 Fiscal Year Research-status Report
十九世紀米国社会の世俗化との関連からみる、奴隷物語の小説化過程の歴史的研究
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26370307
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
堀 智弘 弘前大学, 人文学部, 講師 (10634719)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 奴隷物語 / 奴隷制文化 / Frederick Douglass / 世俗化 / 19世紀アメリカ小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究に関連する一次資料や研究文献を多く購入し、研究環境を整備した。それらの文献を参照し、2011年10月にルイジアナ州立大学に提出した博士論文の一部を発展させて論文としてまとめ、日本英文学会発行の『英文学研究』第92巻に投稿した(査読中)。 2015年2月11日から18日にかけて、第一次資料の収集と現地調査をワシントンD.C.とボルチモアで行った。ワシントンD.C.では議会図書館を訪問し、19世紀当時の多くの奴隷物語の発表媒体となっていた反奴隷制新聞のマイクロフィルムを閲覧するとともに、日本では入手することができなかった関連する研究論文をコピーした。また、代表的な奴隷物語の語り手であるFrederick Douglassが1877年以降の余生を過ごしたAnacostiaのCedar Hillを訪問し、当時の生活状況などを調査した。 ボルチモアではReginald F. Lewis Museum of Maryland African American History & Cultureを訪問し、Douglassが奴隷であった当時のメリーランド州の社会状況を調査した。また、Douglassが北部へ逃亡する際に利用したPhiladelphia, Wilmington & Baltimore Railroadの始点となっていたPresident Street Stationに建っているBaltimore Civil War Museumを訪問し、当時の状況を調査した。さらに、Douglassがコーキン工として働いていたFells Pointの歴史地区を散策し、"Douglass Row"と呼ばれる住居など当時の足跡をたどった。これらの調査を通して、奴隷ダグラスが生活していた当時の状況をより明確に把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のひとつめの目的、小説という近代的物語形式の成立と発展は社会の世俗化とどのように関連しているのかという問題をアフリカ系アメリカ人の物語伝統の点から解明するという点については、研究遂行のための環境整備と関連する情報の収集がある程度できたと考えている。 本研究のふたつめの目的、つまり神への信仰と実業への献身を結びつけるアメリカ的な「資本主義の精神」が成立していった過程をアフリカ系アメリカ人の経験に照らし合わせて明らかにするという点については、ひとつめの点の解明に依拠する部分が大きいため、2年目以降の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一次資料や研究文献の整備はかなり進展したとはいえ、奴隷物語は当時数多く出版され、関連する反奴隷制新聞などの一次資料もきわめて幅広いため、一次資料の収集と読解および研究文献の渉猟は引き続き行っていく必要がある。 資料として収集した個々の奴隷物語について、小説的物語形式への発展という点から詳細に分析していく作業に今後本格的に取りかかる。 アメリカ社会の世俗化過程について理解を深める。その際に特に注目するのは以下の5点である:(1)十九世紀初頭の第二次大覚醒運動、(2)1830年代以降の奴隷制廃止運動を含む社会改革運動の盛り上がり、(3)啓蒙主義以来の理神論の影響、(4)近代的な予型論的解釈学の発展と物語形式の変化、(5)宗教的信仰と労働倫理との結びつき(マックス・ヴェーバーが言うところの[資本主義の精神」)。
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