2015 Fiscal Year Research-status Report
十九世紀米国社会の世俗化との関連からみる、奴隷物語の小説化過程の歴史的研究
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26370307
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
堀 智弘 弘前大学, 人文学部, 准教授 (10634719)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 奴隷物語 / 奴隷制文化 / Frederick Douglass / 世俗化 / 19世紀アメリカ小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度からひきつづき、当研究に関連する一次資料や研究文献を多く購入し、研究環境を整備した。それらの文献を参照し、2011年10月にルイジアナ州立大学に提出した博士論文の一部を発展させて論文としてまとめ、『人文社会論叢』(弘前大学人文学部)人文科学篇第35号、21-35頁に発表した。さらに、アメリカ社会の世俗化に呼応して起きた、Frederick Douglassをひとつの頂点とする奴隷物語の変容について、日本英文学会東北支部大会(2015年11月7日)において口頭発表を行い、その原稿を元に論文としてまとめ、学会誌に投稿した(査読中)。 また、調査のために、2015年9月17日から23日にかけてニューヨークへの出張を行った。アンテベラム期における奴隷制度廃止運動と宗教運動との関連性を確かめるため、New York Public Libraryにおいて、特にAPS (American Periodical Series)のオンライン・データベースを使って当時のいくつかの宗教的定期刊行物を調査した。さらに当時のニューヨークにおける反奴隷制運動の実情を知るために、NYC Slavery and the Underground Railroad Tourに参加し、市内に残る奴隷制度関連の場所を見て回った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の目的、すなわち、特にアフリカ系アメリカ人の物語形式の展開に焦点をあわせて、アメリカ社会の世俗化がどのように経緯で近代的な小説的物語形式の発展に結びついたのかを解明するという課題については、George White (1764-1836), William Grimes (1784-1865), Josiah Henson (1789-1883)の奴隷物語における神の啓示の場面とFrederick Douglass (1818-1895)での類似する場面を比較検証することにより、アメリカの植民地時代を起源とする宗教的な回心物語形式がより世俗的な奴隷物語へと変容していくさまをある程度明らかにすることができた。 本研究の第二の目的、つまり、宗教的信仰と労働倫理を緊密に結びつけるアメリカ的な「資本主義の精神」が成立していった過程を、アフリカ系アメリカ人の物語の分析を通して明らかにする課題については、関連する文献を収集しつつあるとともに、上記の研究成果において検証作業に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
出版された一次資料や研究文献の整備はかなり進展したとはいえ、十九世紀前半の反奴隷制新聞や宗教的出版物は書籍として入手するのが困難なものも数多いため、ひきつづきアメリカのリサーチライブラリーに赴き、オンラインのデータベースやマイクロフィルム、あるいは当時出版された現物を調査する必要がある。 また、すでに手元にある一次資料についても、その量の多さから十分な分析がまだ行えていないものが数多く残っているため、ひきつづき詳細な分析を行う。 十九世紀前半の宗教的文化についてはある程度理解は深まりつつあるが、それが資本主義の発展とどのように連動していたのかについてはまだ十分に把握できていないので、研究文献を読み込み理解を深める必要がある。
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Research Products
(2 results)