2014 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期合衆国表象文化(史)とナショナリズム/ソフト・パワーの関係性に関する研究
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26370309
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
村上 東 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (80143072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 悟視 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 准教授 (40390405)
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 冷戦期 / 表象文化 / ソフト・パワー / 文化装置 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度末に前回の基盤研究(C)の課題であった「冷戦期における合衆国ナショナリズムとソフト・パワーとしての表象文化の研究」のまとめと呼んで差し支えない『冷戦とアメリカ 覇権国家の文化装置』(村上編、臨川書店)を上梓し、問題意識を共有する研究者と研究交流の拡大・深化を図ることができたが、貴重な波及効果である。以下、それ以外の、代表者および分担者の業績を俯瞰しておく。 大田は、第二次大戦前から現代にいたる知識人の動向を(ネオ)リベラリズムやモダニズムといった問題系を中心に調査、考察を深めつつある。英国知識人の動きであれ戦後に顕著となる英米の共犯関係はその端緒を戦前に示しており、考察の成果を、作品を前景化した表象史への転用が期待できよう。塚田は、彼の責任範囲である映画分野において、合衆国植民地主義の展開と途上国との関係(共著書の論文「ターザン、南海へ行く―エキゾチック・ハリウッドの政治学」)へ守備範囲を広げつつ、合衆国内の赤狩り表象(『サンセット大通り』に関する論考など)に関する成果を活字にし、地歩を固めつつある。中山は、活字にしたものこそないものの、カート・ヴォネガットに関して、海外で開催されたパネルを含め、口頭で成果を問い続けており、私たちの研究における小説分野のキー・パーソンに関する仕事を深化させている。村上もまた、活字にしたものこそないものの、福島出身の詩人草野心平を手掛かりとして福島原発問題の(冷戦期に端を発する)国境横断的な問題性(昨年度のイスラエルのアジア学会)、ならびに音楽分野(とその他の表象文化領域)のソフト・パワー問題を扱った発表を行った。 この研究は、批評、映画、小説、その他の分野に区分できるが、そうした個々の分野における研究の拡大・深化は順調に進んでいる、と考えられ、今後さらなる努力を重ねたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
批評、映画、小説、その他の4分野に大別される個々の領域における達成は順調であるものの、それらをひとつの視座、具体的に言えば表象文化史の時系列に沿った視座でまとめてゆく作業を今後の大きな課題として挙げなければならない。例えば、表象文化各領域において、同様の問題性を持った作品が同じ時期に世に問われるのではなく、時間差が認められるし、文化資本として認知されナショナリズムの糧と同時にソフト・パワー化される時期に相当のずれが生じる。これらを整理し、仮説(あるいは理論)付けしてゆく必要があろう。ロック、ブルーズなどの大衆音楽分野に関しては、作品が世に出てインパクトを与える時期と、文化資本として認知され教育などの分野に現象の広がりが確認される時差の確認作業とその理由の特定をほぼ終えている。他の分野を含め、連動する部分とずれが生じる部分を捉えた、包括的な視座の提供が次の課題である。 『冷戦とアメリカ』の出版によって、問題意識を共有する研究者と歩調を合わせることが容易になりつつある。先日(4月25日)、日本アメリカ文学会東北支部で新田啓子氏(立教大)に「背理の根源――ヤンキー式戦後処理の原型」と題した講演をしていただいたが、彼女はその冒頭で私の書いた『冷戦とアメリカ』の序文に触れ、冷戦期に顕著であった理念と政治的思惑の乖離が、十九世紀の南北戦争の戦後処理にまで遡って、その図式が確認できることを示してくれた。他にも本研究と連動している例は見受けられる。人文系の研究は個人の活動と見做されがちであるが、別々の書物や論文を世に送ってゆくものの、問題意識の共有は可能であるし、大きな効果が期待できる。そうした方向へ、本研究に直接関わる4人以外の人間も、着実な歩みを進めていることを報告しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に直接関わる4人以外にも問題意識を共有する研究者が存在し、相互に成果を生かせる環境が以前より整ってきたことを報告したが、研究を加速させると同時に成果を発表する場として、本研究の4人以外の研究者を交えた、映画に関する論集を企画している。 『映像の政治学―映画、表象、イデオロギー』(仮題、論創社、2016年刊行予定、編者は村上、細谷等、中尾信一)には、代表研究者村上の他、分担研究者である塚田、大田も論考を載せる予定(中山は、小説分野に専心するため、この論文集からは外れることになろう)である。本研究の申請を行った際に外部からの協力者として名を挙げた越智博美(一橋大)も加わり、007シリーズの映画に関する冷戦期表象を分析してくれる。また、『冷戦とアメリカ』に「ティファニーで冷戦を――『ティファニーで朝食を』における航空旅行の地政学」を寄稿し、冷戦期における観光産業の想像力が軍事的な地政学に根拠を持つことを明らかにしてくれた三添篤郎(流通経済大)も、核攻撃に対する防御を主題とする教育映画を取りあげる。 国内外における口頭発表も続け、冷戦期における核兵器問題の延長線上にある福島事故まで視野に収めた展開を模索している。同時に、映画分野のみならず他の分野を含めた論文集の企画を考え、次の段階へ研究を深化させ、さらに多くの仲間を増やす努力を続けてゆきたい。 シクロフスキーなどのロシア・フォルマリズム批評は、ソ連邦では黙殺され合衆国で評価されるという極めて冷戦的な受容史を持つが、こうした問題も他の研究者の助けを借りつつ視野に収めたい。川端康成が世界的な文化資本に読み換えられるという冷戦期的な現象が越智(『日本表象の地政学』彩流社、2014)によって明らかにされ、私たちが進める動きが活性化されたが、他の研究者に負けないよう、私たちも力を尽くしたい。
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Causes of Carryover |
一昨年、合州国出張を見送り、予算消化が進まなかったため、昨年度に回していた。一昨年度の分は昨年度で消化したものの、昨年度の割り当ての一部を今年度に回さざるを得なかったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、合衆国への出張による調査ならびに資料取集を予定しているので、旅費として消化する。
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Research Products
(12 results)