2015 Fiscal Year Research-status Report
冷戦期合衆国表象文化(史)とナショナリズム/ソフト・パワーの関係性に関する研究
Project/Area Number |
26370309
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
村上 東 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (80143072)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 悟視 尚絅学院大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (40390405)
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | アメリカ合衆国 / 冷戦期 / 表象文化 / ソフト・パワー / 文化装置 |
Outline of Annual Research Achievements |
前回の基盤研究(C)の課題であった「冷戦期における合衆国ナショナリズムとソフト・パワーとしての表象文化の研究」のまとめと呼んでも差し支えない『冷戦とアメリカ 覇権国家の文化装置』(村上編)の書評が、昨年度末、2篇活字となった。そのふたりの評者からともに高い評価を頂戴している。『東北アメリカ文学研究』第39号に掲載された中垣恒太郎氏によるものと、『アメリカ文学研究』(日本アメリカ文学会)第52号に掲載された前川玲子氏によるものである。前川氏は「本書は、冷戦期のアメリカ文化、歴史、文学を検証する上で今後の研究者にとって必読の書である」とし、収録された論文にも極めて好意的な紹介をしてくださっている。文化系の研究は個人プレーと考えられがちだが、他の研究者が方向性を共有することで幅広い展開が期待できる。今後私たちが企画する論文集やシンポジアムがさらに注目され、私たちの仕事と相補作用を持つ研究が増える可能性が強まったことを感謝せざるを得ない。 ロレンス論以降の大田は、英米の共犯関係の研究を深化させつつ、問題意識にアジアを取りこみつつある。塚田は、上記の論集で第五福竜丸事件を扱って以来定点観測を続けている日本と核の問題で新たな展開を示しており、その成果を全米比較文学学会(於ハーヴァード大)で発表した。また彼は、映像分野以外でもモダニスト小説家に対する議論も深化させている。冷戦期合衆国の文化戦略で主力商品となっていたものがモダニズムである以上、ヘミングウェイに代表されるモダニスト小説家に関する研究に新たな方途を探る作業は、それだけでは冷戦期を捉える問題系を拾い出すことがむずかしいとしても、続ける必要があろうし、中山が多大な労力を傾注してきたヴォネガットはそれら前世代に対する批判的な展開として今後も重要性を持つ。村上はロバート・オルトマンが対抗文化を扱った映画に関する研究を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新しい発見したらすぐに論文のかたちで世に問うことが当然である理系とは異なり、私たち文系は活字にするまで若干の時間を要する。昨年と比較して今年は業績数が少ないが、公刊準備中のものがある程度の分量揃っており、おおむね順調に進展している、としても大過はなかろう。例えば、大田、塚田、村上が論文を寄稿する『映像の政治学――映画、表象、イデオロギー』(仮題、論創社、編者は細谷等、村上)は目次等の編集段階に入りつつある。 昨年この項で課題とした「批評、映画、小説、その他の4分野に大別される個々の領域における達成は順調であるものの、それらを一つの視座、具体的に言えば表象文化史の時系列に沿った視座でまとめてゆく作業」を進める方途として、視野に収める時代の幅を広くすることによる巨視的な展開を模索しており、その具体的な取り組みとして、本年度日本英文学会第88回大会において、塚田の統括によりシンポジアム「メディア、帝国、19世紀アメリカ」を組み、中山、塚田、村上が発表を行う。映像で前景化される身体から社会、歴史、政治を読みとる手法に熟達している塚田はボディビルを鍵としてメディアを点検するが、映画が圧倒的な影響力を持つ二十世紀の研究をその端緒から見直す側面を持つであろうし、中山のユートピア表象を扱う発表はディストピア小説が特異なかたちをとる二十世紀合衆国を逆照射することとなろう。村上は覇権国家に相応しい、世界に売りつけるものが多々ある合衆国の文化的成熟過程を概観する。こうした論考を活字にする際、時系列に沿った視座でナショナリズムとソフト・パワーの問題を語る今までとはいささか異なった路線を打ち出したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究に直接関わる4人以外にも問題意識を共有する研究が増えており、相互に成果を生かせる環境が昨年以上に整ってきている。研究を加速させると同時に成果を発表する場として新たな論集の企画が進められている。昨年この項で報告した『映像の政治学――映画、表象、イデオロギー』は今年中の刊行を目指しているが、現時点ではまだ企画段階のものが2冊ある。 2015年度日本英文学会東北支部北米文学部門においてシンポジアム「ヒッピー世代の諸先輩」を組んだ。村上の企画・司会によるものだが、対抗文化以前の世代から対抗文化の時代を捉え直すことを主眼としている。例えばヘミングウェイの場合、親の世代まで続いた価値観の再検討、合衆国社会に批判的な政治姿勢、一面フェミニズムを先取りした性、などの点で対抗文化と多くを共有するが、当時は過去の作家という見方が強く、文学研究が次々と新たな展開をみせ現在のヘミングウェイ評価にたどり着くのはヒッピー世代以降となる。文学作品は、文学史が研究され書物となることでナショナリズムとソフト・パワーの糧、言い換えれば文化資本としての機能を持つようになるが、文化資本として認知されるまでの紆余曲折、解釈・評価の変遷を分析してゆくことから、表象文化の政治性ならびに文学史書き直しに付随する問題を掘り下げてゆきたい。この論集(中山が編集を統括する)では対抗文化そのものが反社会的な評価を洗い流され、文化資本化されるようになって久しいことも重要な視点となろう。 5月の日本英文学会シンポジアム「メディア、帝国、19世紀アメリカ」も塚田が企画・編集を統括し、論集として出版することが話し合われている。第二次大戦によるヨーロッパの決定的な地盤沈下により合衆国が覇権国家となるのは二十世紀中葉だが、覇権国家に相応しい文化は既に世紀転換期にかたちを整えつつあったのである。その問題が前景化されることとなる。
|
Causes of Carryover |
分担研究者中山は、広島県の海上保安大学校から郷里で母の住む仙台にある尚絅学院大学へ転出する準備のため、海外出張の日程を確保することが困難であった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
分担研究者中山が海外出張および書籍購入で、今年度交付される額とともに、上記で次年度使用額とされている交付金を消化する。
|
Research Products
(10 results)