2015 Fiscal Year Research-status Report
環境汚染問題への英語圏モダニズムの文化的介入法を分析する
Project/Area Number |
26370316
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 雄三 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (10273715)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小杉 世 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (40324834)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ポスト石炭産業 / 故郷喪失 / バイリンガリズム / 核実験 / 環境劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度においては、研究代表者の山田が「石炭産業とモダニズム」との関係について調査を行い、研究分担者の小杉がオセアニア地域における「ポスト石炭産業と文化」との関係について調査を実施した。以下に概要を挙げる。 「石炭産業とモダニズム」(山田) 今年度はスコットランドおよびウェールズにおいてモダニズム運動を展開した作家のうち、Hugh MacDiarmid, Margiad Evans, Glyn Jones, Lewis Jones, Gwyn Thomas, Raymond Williams を扱った。これらのモダニスト作家は先行者(T. S. EiliotやVirginia Woolf)による「複数の声」を用いた手法を引き継きながら、石炭産業が低迷するコミュニティの結束を生み出す方法へとそれを発展させた。その際、とりわけウェールズではウェールズ語と英語とのバイリンガリズムがおもな特徴であることを明らかにした。 「ポスト石炭産業と文化」(小杉) 前年度に引き続き、オセアニア地域を重点的に調査した。より具体的には、10月にキリバス共和国における現地調査を行った。核実験が行われていた当時クリスマス島に在住し、現在タラワ島に帰還しているキリバス人を対象とする聞き取り調査を行った。また、タラワ島のナニカイ村の障害者からなる共同体 (Te Toa Matoa) の環境劇の取り組みについての調査を行い、そのメンバーのライフ・ストーリーを聞くことで、キリバスの植民地時代とその後の生活の現状が島民の健康に与えた影響について考察を試みた。5月に発行した論文では、ニュージーランドの作家Janet Frameの詩とColin McCahonの絵画に見られる核の表象を論じている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における環境問題の個別的な事象は、20 世紀に起きた2つの環境汚染を指している。(1)ひとつに後期モダニズムが対象としていた地域、南ウェールズの炭坑地帯における環境破壊がある。これへの反応としてウェールズ語と英語を言語メディアに「産業小説」と呼ばれる新しいリアリズムの形態が誕生する。この2年間、その過程をかなりの程度詳らかにした。(2)また、研究分担者の小杉はオセアニア地域のモダニスト系作家たちを中心に、彼らによる環境言説を継続的に調査している。とりわけ核実験に よってディアスポラとなった人びとの体験を代弁/表象するオセアニアの作家・芸術家たちが、放射能によって破壊されたひとと動植物、風景とのあいだの関係を詩的言語の発明というかたちで再構築を試みていることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年度において小杉はミクロネシア諸島でのフィールド調査を実施する。マーシャル諸島をはじめとする核実験場となった地域では、放射能の影響により植生が変化し、かつての暮らしが営めなくなった共同体が生まれた。それは、共同体の崩壊と安全な場所への移住という事態をもたらす。これらの経験が脱植民地化の過程での民族的なエクザイル体験と相まって、どのように表象されるか、故郷喪失と回帰への希望の言説を分析し、彼らの文体に西欧モダニズムのエクサイル文学がどのように取り込まれているかを明らかにする。 研究代表者の山田は水俣病をテーマに掲げる。第二次世界大戦後に石炭から石油へのエネルキー転換が起きると、ウェールズや九州では廃坑が相継ぐ。九州最大の筑豊炭田で失業者した人びとのなかには、基幹産業となりつつあった石油化学産業に職を求めた。そして、この産業でも優良企業とされていたチッソの 水俣工場で、その排水が原因の水俣病が発生する。この時期、炭坑共同体と水俣に関わったモダニスト集団に石牟礼道子がいる「サークル村」かあった。その活動のなかから、 水俣病患者を表象するモダニズム文体、形式も生まれている。その過程を 重点的に明らかにしたい。
|