2014 Fiscal Year Research-status Report
島嶼からとらえるアメリカ文学ー孤立主義のレトリック再考
Project/Area Number |
26370324
|
Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
佐久間 みかよ 和洋女子大学, 人文社会科学系, 教授 (00327181)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 孤立主義 / ラルフ・ウォルドー・エマソン / エドガー・アラン・ポー / トランセンデンタリスト / 島嶼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は19世紀のアメリカの知識人が孤立という概念を如何に捉え、それを作品のなかでどのように表していったか、またそれが当時の社会とどのように関わりがあったかを研究した。ハーバード大学ワイドナー図書館、ホートン図書館、ボストン公立図書館、ボストン・アセナーエウム、ローエル博物館、コンコード歴史博物館、ニューヨーク公立図書館などで資料を収集した。資料を収集していく過程で、孤立の概念および、政治に対する文学者の態度に地域差がみられ、その詳細について研究することとした。 研究対象にしたのは、アメリカ独立以来、独立という概念に対して強い執着心のあったボストンを中心とする地域の作家・知識人と、19世紀から文化の中心となるニューヨークを中心とする作家・知識人である。ボストン中心の知識人は、孤立をポジティヴなものと捉え、個の意識を強く意識し、独自性を出す必要性を打ち出しているが、それが当時の外交言説とも近接していることを意識し、いわゆる外交で用いられる孤立主義が本来の孤立とは違った方向で流布していることに反対し、本来の孤立の精神を訴えていく内容のものを出版していたことが確認できた。これに対しニューヨークのジャーナリストは、過度に政治言説に反応し、結果的に政治言説を浸透させていく方向に向かったことを確認できた。 研究結果を2014年のPAMLA学会(於 リバーサイド、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)、また2015年3月の国際ポー学会(於 ニューヨーク、ニューヨーク州、アメリカ合衆国)、2015年3月アメリカ文学会東京支部で発表した。発表では、それぞれエマソン、ポーを中心に行った。当時の外交政策である孤立主義のレトリックが領土拡大へ変換されていく時代にあって、文学者が懐疑的な意味合いで孤立を捉え、それが結果的にアメリカの地域の特色を明確にするものとなったことを論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度はアメリカ知識人の孤立主義的レトリックの研究でトランセンデンタリストを中心にする計画であり、その計画に沿って、現地での十分な調査が行えたからである。これは海外研修に出向けることとなり、十分な研究時間が確保できたことが大きい。 またボストン、ハーバードの図書館での資料調査にあたり、項目を絞り、それぞれ専門のライブラリアンからの適切な助言を得られたこともあった。そのため、ボストンからニューヨークへのつながりを広げて研究できることになり、19世紀中頃の文学と政治の関係の理解が深まったといえる。 本年はハーバードの研究員として、図書館だけでなくオンラインでもさまざまリソースにアクセスできたことが研究の範囲を大きく広げられたこと、また比較文学研究者等の知己も得ることができ、多角的な視野を持てたことで研究を促進することができたためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、アメリカ本土を中心にして知識人の孤立主義的レトリックについて、ジャーナリズムの発展とあわせて研究することができたので、今後の計画に従って、アメリカに隣接する島嶼について研究を広げていきたい。 カリブ海、太平洋などの島嶼が、国民文学の言説に如何に関わりを持ってくるのか、またそれを文学者がどのように表象しているか、政治やジャーナリズムの動きとあわせて研究していきたい。そのための現地調査を行っていく予定である。 平成26年度の研究から19世紀のアメリカ国民文学の生成と日本のアメリカ文学受容の歴史を双方向的にみる必要を感じたので、日本からの太平洋の島嶼の表象についても今後の研究内容に加えたい。19世紀という時期は国民文学、国民性を考える上で、日米の諸事情が近代化の生成の過程で近接する時期であり、太平洋の島嶼をアメリカ東海岸の文化がどのように意識し、またそれが日本にどのように影響を与えていったかについても考察していきたい。 今回ポー国際学会を通じて知己を得たポー研究者の紹介により、オンラインの情報誌Baltimore Post Examinerにポー学会の発表に基づいたコラム執筆の機会を得た。こうした機会を通じて研究結果を広く一般に発表し、19世紀文学と現代との接点を探っていきたい。 地域性の問題と島嶼の問題をレトリックとして関連づけて考察することにより、19世紀アメリカ文学の持つ問題に対して新しい視点で議論をしていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
平成26年度は、米国において半年間の在外研究ができたため、米国での学会への参加が費用などの面での経費が大幅に削減できたためである。また、謝金が生じる研究会でなく、滞在中に米国の大学で開かれたシンポジウム、授業などに参加することで、研究への助言を得ることができたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度において米国滞在中に大学の図書館のライブラリアンから得た助言をもとに、米国内の地方の公共図書館、私立図書館にある資料についての調査を行いたいと考えており、そのための旅費として使用する計画である。 また、昨年度行わなかった研究会も実施し、可能ならば海外からの講師を呼ぶことで、研究の助言を得、研究事項の方向性を確認していきたい。そのために本年度の分を次年度以降使用していきたい。
|
Remarks |
Baltimore Post-Examinerのホームページに、Edgar Allan Poe and Isolationismのタイトルでコラム掲載。 http://baltimorepostexaminer.com/edgar-allan-poe-and-isolationism-his-mysterious-years-in-new-york/2015/05/05
|
Research Products
(5 results)