2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370326
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | casting-off mark / William Caxton / 印刷用手稿 / Chronicles of England / HM136写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「HM136写本の成立から印刷までの過程」を構築するに当たっては、3つのアプローチから成る研究計画を提出した(A.テキスト派生に関する研究、B.castinf-off markの比較研究、C.来歴に関する調査)。2015年にはAに関連する論文を発表し、Bの比較をするにあたりもっとも重要な資料が収集できた。ただしCについては筆者の当初の予想とは異なる見解を示した論文が発表されたこともあり、今のところLeche familyのアーカイヴに行って得られる情報が本研究に役立つかどうかは限定的だと判断している。ゆえにCの計画は軌道修正中である。 【A.の実績】2014年のシンポジウムで発表した調査研究に基づき、これまで重要視されていたBL Add 10099写本を仔細に検討、これがCaxtonの印刷本を手稿として書写されているという事実を改めて示した。これはAdd 10099写本の成立が、HM136写本の成立との対照をなすものとして重要だからである。論文では特に接尾辞や表現の「近代化」に着目し、Add 10099写本が写本から派生したとは考えられないことを示した。 【B.の実績】Vatican図書館にてCaxtonが使用した印刷用手稿として唯一知られていた_Nova Rhetorica_の写本Vat.lat.11441のcasting-off markを目視で確認、デジタル画像も入手した。コピーライトの関係でこれを出版することは簡単ではないが、研究者が確認した限りHM136写本に施されたcasting-off markとは大きな隔たりがあることが明らかになった。同じ工房でも年代/言語によって印刷工程方法が相当異なっていたことが確認できる。通常casting-offは工房の親方が入れるものとされていたが、両方ともCaxtonが入れたと考えるのが妥当か、根本的な検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己点検をしてみると、過去2年間で残すことができた発表数・論文数があまり多くないことが惜しまれる。また、上述したように、計画のCにあたるLeche familyの歴史研究がHM136写本の来歴とは関わらないかもしれないという知見を得たために、この部分については今回の調査で結論が出せない可能性も出てきた。 以上の反省点はあるものの、2016年に入ってからバチカン図書館での情報収集が非常にうまく行ったため、HM136写本とVat.lat.11441写本上のcasting-off markを比較検討する目処は立ってきている。Vat.lat.11441写本とはラテン語の_Nova Rhetorica_の写本であり、Caxtonのcasting-off markが施されていることがHM136写本以外で知られる唯一の写本だ。このたびそのcasting-of markをデジタル画像で採取することができた。これとHM136写本の画像の比較により、Caxton工房での印刷形態の変遷というマクロな視点から、HM136写本のcasting-off markを研究することが可能になったと考えている。 また、関連してHuntington図書館で新たな知見を得た。2015年夏、研究代表者がCaliforniaのHuntington図書館での調査中に、HM136写本のページ割付方法は、ドイツの印刷業者が採用した方法と酷似しているとの仮説がドイツの研究者Randall Herz氏よりもたらされた。これはCaxton印刷工房でHM136写本どのように印刷に使われたのかを示すひとつの有力な仮説である。ちなみにVat.lat.11441写本はHM136写本のやり方を踏襲せずにページの割り付けを行っていることから、Caxton工房では印刷年代や対象言語によって複数のページ割付方法を試みたと推論できそうだ。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、二つの写本に施されたcasting-off marksのデジタル画像を入手することができたため、比較を実施し、その違いについて研究発表、そして論文を書くという流れになる。 これまでには行われたことのない新しい研究となるため、充分な専門家からの知見も必要である。そのため慶應義塾大学の高宮利行名誉教授、オックスフォード大学のDaniel Wakelin教授、もと大英図書館のLotte Hellinga博士から今年の夏までに適切な助言を得ながら研究を進めたい。 特にLotte Hellinga教授は2014年の著書の中で研究者の研究について前向きの評価をしてくださっていることもあり、今回のcasting-off mark比較についてはこの分野での第一人者としての見解をいただくことができればと期待している。
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Causes of Carryover |
2016年2月にVatican図書館で生じたデジタル画像の購入費の精算がまだ終わっていないため。(推定金額は65万~70万程度)デジタル画像のやりとりはまだ継続中であるが、終了次第先方からは請求書が送られ、それに基づいて決済を進めたいと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Vatican図書館でのデジタル画像の購入。
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Research Products
(2 results)