2016 Fiscal Year Research-status Report
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26370327
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
常山 菜穂子 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (00327686)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ演劇 / アメリカ演劇史 / ハワイ / 日本人移民 / 太平洋横断的 / 19世紀 / 20世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀後半から20世紀初頭のハワイにおける演劇文化の状況をできるだけ再現することによって、従来のアメリカ演劇史から抜け落ちた当該時期の日米演劇の交渉を解明することを目指す。そのために、研究開始時から本年度も引き続いて、当該時期およびそれ以降の、主にハワイにおいて発行された日英両語による新聞、年鑑、歴史書、地図、写真、図版などから演劇文化に関する記事・データを収集・蓄積した。特に、新聞ではPacific Commercial Advertiser, Hawaiian Gazette, Hawaiian Star、『やまと新聞』、『日布時事』、年鑑ではTherum’s Annual、地図ではDaikin Insurance Mapsから収集した資料が今後の研究に有効であると思われる。さらに、19世紀後半から20世紀に、ハワイを中継しながら太平洋横断的な巡業を行ったアメリカ人役者たちの旅行記や伝記といった一次資料の入手に努めた。 また、本年度は本研究の目標のひとつである、ハワイにおける日本人移民による初期演劇文化の様相を明らかにする作業に進展があった。まず、世紀転換期にホノルルのダウンタウンに建設された日本人のための劇場群について、同時代の新聞記事、広告、歴史書、写真、地図から設立の経緯、内外観、規模、運営方法などが判明した。特に、旭座と、その後継として建築された旭劇場という2つの代表的な常設劇場について詳細に調べた。さらに、日本人移民の手によって制作・上演された作品の具体例を取り上げて、21世紀に制作・上演されたハワイ演劇の作品と比較・分析を行い、のちのハワイ・ローカル演劇の系譜に連なるような人種と階級のテーマを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の計画では、各論として以下の3点を考察することであった。 ① 昨年度から引き続き、19世紀後半から20世紀初頭にかけてホノルルに建設された日本人のための劇場群について、その概要を明らかにすると共に、日本人が専用劇場を建設したことの意義を日米両国の帝国主義的文脈に位置づける。 ② 当該時期にホノルルに生まれた日本人劇団の人員構成、興行形態、上演内容などを明らかにしながら、演劇文化が移民社会の形成に果たした役割を考える。また、そうした日本人劇団のひとつである「旭團」が制作・上演した、労働者階級を題材とする演劇作品『明治五十年未來の臺灣増給問題』(1909)と、同様の主題を現代の視点から問い直すハワイ・ローカル演劇の作品Another Heaven(2001)を比較・分析する。 ③ ハワイを中継するアメリカ演劇の太平洋横断的な、ひいては世界一周の巡業ネットワークがいかにして構築されていたかを、同時代のアメリカ人役者の旅行記と伝記からあぶり出す。 上記①に関しては、考察の成果を共著掲載の論文として発表した。②については、戯曲テクストの入手に手を尽くしたものの最終的には所在確認ができなかった。その結果、ハワイで発行されていた同時代の『やまと新聞』に掲載された劇評を論拠とするに至り、当初のテクスト分析中心の計画とは異なるアプローチ方法となったが、考察には有意義な成果があった。一方で、③に関しては、一部の旅行記の入手が困難かつ時間がかかったため、入手したテクストの解析作業は次年度の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究予定は、当初の研究計画から大きな変更はないと見込まれる。平成29年度は研究計画の最終年であることを踏まえて、以下の3点を行う予定である。
① 研究開始時から行ってきたデータベースの構築を続ける。 ② 研究期間中に口頭発表してきた考察を論文・記事として総括する。 ③ 研究期間中に考察して得られた内容を摺り合わせて、19世紀アメリカ演劇が他者の演劇文化と交渉して異種混淆的(ハイブリッド)な演劇空間を作り出していた様相を、日米の観客という観点から考える。また、これまでで明らかになったハワイにおける演劇文化をアメリカ演劇史の流れの内に位置づける作業を行う。
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Causes of Carryover |
当該年度に資料収集および意見交換のため2回のアメリカ出張を予定していたが、日程の都合により1回だけとなったため、次年度使用額が生じた。また、文献の所在調査およびその資料の取り寄せや複写に大きな出費が見込まれたが、資料の所在確認ができなかったり、あるいは取り寄せや複写に想定した費用がかからない場合があったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度には、今年度に引き続き、19世紀後半から20世紀初頭のハワイにおけるアメリカ演劇の制作・上演状況を明らかにし、日米演劇の太平洋横断的交渉を分析する際の材料となる資料の収集を行う。そのため、資料の所在調査および取り寄せ、複写などに出費が見込まれる。また、資料収集および意見交換のためにアメリカ出張を予定しているので外国旅費がかかる。
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