2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370329
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 准教授 (00407602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
生駒 久美 大東文化大学, 文学部, 講師 (00715063)
堀 智弘 弘前大学, 人文学部, 准教授 (10634719)
杉本 裕代 東京都市大学, その他部局等, 講師 (20581797) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 人種関係 / 白人研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の2年目である昨年度は、初年度同様に理論的整備のための報告会および研究の途中経過を報告する研究会を行い、意見交換をすると共に、引き続き研究者各自が資料の調査・収集を行った。 8月2日におこなった昨年度第1回の研究会においては、この研究プロジェクトにおける問題を鮮明化するため、研究代表者の権田建二が、貧乏白人研究の第一人者である社会学者 Mat Wray の主著 <i>Not Quite White</i> に関する報告を行った。また、研究分担者生駒久美が参加した7月の合衆国での Mark Twain 学会の様子を報告し、その学会で得た意見等を踏まえて練り直した論考を次回の研究会で発表することとした。 12月20日の第2回研究会においては、研究分担者生駒久美による Mark Twain, <i>Adventures of Huckleberry Finn</i> に関する報告を行った。アメリカ文学の古典の主人公が貧乏白人であることの意味を明らかにする必要性があることを確認した。また研究代表者権田建二が、研究の途中経過として、人種の混交がすすみ、人種の分類が非常にあやふやになった19世紀末という時代以降、〈白人〉という〈人種〉を再定義する必要性があること、そしてそれが〈黒人〉という人種の定義および、白人と黒人の人種関係というより大きなテーマとは不可分であることを確認した。 2016年3月23日に行った第3回研究会においては、外部の講師として山形県立米沢女子短期大学の渡邊真奈美氏を招聘し、Sherwood Anderson, <i>Poor White</i> に関する報告を行っていただき、20世紀初頭のアメリカ文学作品における貧乏白人の表象とそれに対する作家アンダーソンの視点について意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者権田建二は、これまでアースキン・コールドウェルを中心とした作家たちの1920, 30年代の作品における貧乏白人の表象と、同時代の人種概念、人種関係、優生学、労働観との関連を論じていくために必要な、一次・二次資料の調査を行ってきたが、調査を進める中で、そもそも〈白人〉とは何かという問題を整理する必要性が生じるようになった。このため、1920, 30年代という時代から19世紀末に焦点を移し、〈白人〉と〈黒人〉という人種の分類が制度からされ始めた時代において、どのように〈白人〉および〈黒人〉が捉えられていたのかを中心に据える研究へと変更することとした。この変更に応じて、19世紀末から20世紀にかけての人種関係に関する資料収集にあたった。 研究分担者生駒久美は、昨年度は、これまで、19世紀南北戦争前後の米国における貧乏白人研究を行い、その研究を元に『ハックルベリー・フィンの冒険』を、人種と階級の視点から考察した。その研究成果を米国の学会で報告し、肯定的な評価、助言を得ることができた。 研究分担者堀智弘は、貧乏白人やアイルランド系移民についての一次資料や研究文献、および関連するアメリカ文化の歴史的背景についての研究文献の調査と収集についてはある程度達成されつつある。 Solomon Northupの <i>Twelve Years a Slave</i> (1853) など、アンテベラム期のいくつかの奴隷物語における貧乏白人の表象の調査と分析を行った。 理論的な面については、8月に行われた研究会での議論を通じて、貧乏白人という概念が生み出され、再生産される社会的メカニズムに関して理解を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、各研究者および研究協力者による研究成果の経過報告を中心とした研究会を開催する予定である。 権田建二は、19世紀末に人種隔離法を合法とすることで、人種の分離を促進することになった1896年に最高裁が下したプレシー判決を中心に、19世紀末の人種概念に関する言説の調査・収集にあたる。それらの言説がいかに、〈白人〉や〈黒人〉という分類を形成してきたのかを明らかにすることを目指す。 生駒久美は、『ハックルベリー・フィンの冒険』では、貧乏白人と黒人奴隷の連帯について考察したが、今後は『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』に焦点を写し、黒人に対する差別・暴力に対し、貧乏白人がどのような役割を果たしていたのかを考察していく。そのため、貧乏白人に関する資料を引き続き集める一方、『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』に関する資料・研究書を読んでいく予定である。その成果は、海外のジャーナルに投稿する予定である。 堀智弘は、関連する資料の整備はかなり進展したとはいえ、本研究は米国史の幅広い事象に関係する研究であるため、ひきつづき資料の発掘、調査、収集を行いつつ、分類と整理をさらに進めていく。十九世紀中葉に激増した特にアイルランド系移民に注目して奴隷物語の読解と分析を進める点では以前と変わりないが、同時期の貧乏白人と黒人奴隷両者に大きな影響力を及ぼした草の根の社会的組織として、メソディスト派やバプティスト派の教会があったと考えられるため、教会関連の出版物も調査の対象に含めたい。
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Causes of Carryover |
昨年度の予算があまり消化されていないのは、次年度への海外出張旅費にあてるためである。校務の関係で、予定していた時期に出張ができなくなったため、本課題のための海外出張は平成28年度に持ち越すこととした。また研究計画の修正に伴って削除となった研究分担者が26年度に使用するはずだった研究費が全額未使用のまま返還されるということがあり、その分の研究費は昨年度使用することができず、今年度にもちこされることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記にあるように、今年度は、海外に資料調査に行く予定であるので、予算の大部分はこのための旅費にあてることになる。研究分担者もそれぞれ調査のための国内外の出張を次年度に予定している。 また平成28年度は、研究分担者および協力者による研究会を行うことになる。研究費は研究協力者が報告に使用する資料等の購入の支出にあてる予定である。
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Research Products
(4 results)