2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Reception of James Joyce and the Changes of the Literary Tradition in Ireland
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26370335
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
結城 英雄 法政大学, 文学部, 教授 (70210581)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / 文学的伝統 / ケルティック・タイガー / 人種差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アイルランドにおけるジェイムズ・ジョイス受容をめぐり、その「変遷期」にあたる2007年以降の状況を検討した。この時代のアイルランドは、「ケルティック・タイガー」と呼ばれた経済的繁栄も終息し、国家のアイデンティティを再確認すべき時代を迎え、ジョイス受容の変遷期に相当する。先行するジョイス受容の「開花期」は、1993年のEU加盟以降の10余年で、ジョイス評価はヨーロッパとアイルランドの間で微妙なバランスを保っていた。アイルランドもEUの加盟国として、国際的な視野によって立ち、ジョイスを受け入れた。ジョイスがトリエステ、チューリヒ、パリといった大陸の都市を移り住みながら、その地の思想を敏感に吸収したように、アイルランドもヨーロッパに、さらには世界に開かれた国家としての相貌をてらった。その一方で、アイルランド独自のアイデンティティを前景化するため、ゲール語を母語とし、アイルランド独自の文化にジョイスを取り込んでいた。 こうしたバランスが崩れたのが「変遷期」である。ヨーロッパを中心とするジョイス受容の基盤が脆弱であることも判明した。モダニズムの大変革者としてのジョイス像は、ヨーロッパのアメリカ人によって構想され、欧米で確立していった。このジョイス像と矛盾するのが、ダブリンという地域都市に固執した、ジョイスの主要四作の創作姿勢である。この時期のアイルランドにおいては、市民権を認知されやすいこともあり、多くの移民を抱え、人種差別的な方策で対応することになった。この姿勢はジョイスが描いた閉塞的で狭隘なアイルランドそのものであった。かくしてアイルランドは、ジョイスの描いたかつての世界へ回帰することで、ヨーロッパ化したジョイス像を見失った。今や、自国の文化遺産の一部としてジョイスを取り込みつつも、そのヨーロッパ的な側面から離れつつある。この流れを追う必要がある。
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Research Products
(4 results)