2014 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ系アメリカ文学に於けるイスラエル表象と平和のレトリックの考察
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26370336
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Research Institution | Musashino Art University |
Principal Investigator |
相原 優子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30409396)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ / ユダヤ系作家 / ホロコースト / イスラエル / パレスチナ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度はユダヤ系アメリカ文学におけるイスラエル表象と平和のレトリックの研究を開始するにあたり、その土台作りを中心に行った。まずは資料を集めるところから始めた。特に刻々と進展するイスラエル・パレスチナ問題に関する資料、シオニズムの歴史と発展、そして戦争論、平和論に関する資料を重点的に集めた。資料集めと同時に、ユダヤ系アメリカ人作家の代表格であるソール・ベロー(Saul Bellow)の作品に於けるイスラエル表象を確認する上で、唯一のノンフィクションであるにもかかわらず、従来の研究では取り上げられることの殆ど無かったTo Jerusalem and Back(1976)の丹念な読み直しを行った。一方でホロコーストを扱ったベローの作品の中でも、従来の研究では充分論じられてこなかった後期の作品『ベラローザ・コネクション(The Bellarosa Connection)』(1989)を取り上げ、その分析を行った。『ベラローザ・コネクション』は、ベローのホロコーストを扱った代表作『サムラ-氏の惑星(Mr. Sammler's Planet)』(1970)から19年後に書かれている。この作品に於いてベローは、ホロコーストの悲劇、特にその表象にまつわる問題点、特にホロコーストそのものを体験していないユダヤ系アメリカ人作家としてこの犯罪を如何に表象するか、というユダヤ系アメリカ人作家にとって重要な問題に対するベローなりの回答を示した。その回答の中で、ベローがホロコーストに軸足を置きながらも既にイスラエル・パレスチナ問題にも視線を向けていることが見受けられた。この点を拙論「ビリー・ローズ『記憶』を問う:The Bellarosa Connection再読」にまとめた。現在は『サムラ-氏の惑星』に於けるイスラエル表象を分析する研究を始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は、まずは土台作りの1年として位置付けており、主要な資料集めと、全体の基本軸となる研究を行う予定としていた。資料集めという点では、研究に必要な基本図書や文学論などの資料を概ね順調に集めることが出来ていると思う。ただ、ホロコースト研究、イスラエル・パレスチナ問題の研究は常に進んでおり、未だ充分とはいえない。また問題の複雑さ、その進展の激しさ、研究が多岐に亘っていることから追いつくのが容易ではないことも実感した。また、基本軸となるユダヤ系アメリカ人作家ソール・ベローの後期の作品の分析研究に着手することが出来た点でも概ね順調だとは言えるが、本年度中にベローの代表作『サムラ-氏の惑星』(1970)について、もう少し分析研究を進める予定にしていたのだが、その部分でやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、平成26年度でやり終えられなかったソール・ベローのホロコーストを扱った代表作『サムラ-氏の惑星』の研究分析に取り組みたいと思っている。研究を進める中で、一見ホロコースト及びイスラエル・パレスチナ問題に直接関係ないと思われてきた初期の短編小説(例えば「黄色い家を残して(Leaving the Yellow House)」)にも、ベローが後年この問題を扱う際の文学レトリック上の戦略の萌芽が見受けられるのではないか、という推測が芽生え始めてきた。この点も是非研究を進めていきたいと思う。また、もう一人の重要なユダヤ系女性作家シンシア・オジック(Cynthia Ozick)の作品に於けるイスラエル表象、特に彼女のエッセイ等に於ける一見明快な(やや明快すぎる)政治的発言と文学作品の中で展開される複雑なレトリックとの関係性の分析を中心に研究を始める予定としている。
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Causes of Carryover |
初年度ということもあり、まずは書籍や研究環境を整えるためのパソコンやプリンタなどを購入し、その点は概ね予定通りと言える。次年度使用額が生じた大きな理由としては、平成26年度中に調査出張を予定していたが、学務との関係で時間が見つけられず、そのために計上していたものが使用出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究資料の購入が主なものとなる。また、研究活動に必要な研究環境を整えるために論文執筆に必要な文房具や物品を購入する。研究の進捗状況を確認し、平成26年度に予定していた出張旅行の妥当性を検討した上で、その計画を実行するために使用する。
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