2016 Fiscal Year Research-status Report
アメリカン・ルネッサンス期の先住民作家William Apessとその文学
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26370339
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
小沢 奈美恵 立正大学, 経済学部, 教授 (80204197)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ先住民自伝 / William Apess / A Son of the Forest / Conversion Narrative / Captivity Narrative / Slave Narrative / auto-ethnography / Methodism |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、19世紀の先住民作家William Apessとキリスト教の宗派メソジストとの関係を研究したが、具体的な論文発表の成果としては、Apessの自伝に関する作品論一本に留まってしまった。2015年の日本アメリカ文学会全国大会での発表を基にして、「アメリカン・ルネッサンスにおける先住民自伝―ウィリアム・エイプスの『森の息子』論」(『異文化の諸相』(日本英語文化学会)第37号(2017年2月)23-36)を発表した。 具体的な論文まで完成しなかったが、メソジスト派に関する研究も行った。Apessの著作の背景のすべてにメソジスト派の影響があるが、とりわけ宗教色の強い2作品を読み返しノートを取った。The Increase of the Kingdom of Christ: A Sermon and the Indians: The Ten Lost Tribes(1831)とThe Experiences of Five Christian Indians of the Pequot Tribe(1833)である。 また、メソジスト関連の書籍や論文を読んで、約120頁ほどA5版ノートにまとめた。メソジスト派が、イギリスで創設されアメリカに布教に渡り、アメリカ先住民に対する布教がどのように進められていったのか、また、メソジスト派のどのような思想が、既存のピューリタン宗派と対立しながら、白人貧困労働者層だけでなく、先住民や黒人奴隷などマイノリティの人種を巻き込んでいったのかを学んだ。また、これまであまり顧みられてこなかったが、大西洋横断的文化の中で、アフリカやアメリカにおいて先住民の布教者が果たした役割についても知ることができた。 以上のように、論文発表という直接的な実績に結びつかなかったが、次の論文への糸口を発見することはできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、所属学会の日本ソロー学会で、ヘンリー・デヴィッド・ソローの生誕200周年記念の英文論集の執筆と編集も重なり、科研の研究テーマとの両立を行うことは大変難しかった。 また、所属大学でも学部の入試委員長の仕事を担当しており、仕事量が例年よりかなり多く、研究時間の確保は困難であった。 以上の理由から、科研費を頂きながら申し訳ない状況ではあるが、十分な成果に結びつかなった。しかしながら、資料を集めたり、ノートを取ったりという作業は少しずつ進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、三つの課題がある。一つは、メソジスト派のアメリカ先住民への布教とその影響について論文にまとめることである。これまで資料を集め、研究を行ってきたノートを基にして、第一に、メソジスト派やその他のキリスト教宗派がアメリカ大陸とWilliam Apessの生きていた東部で、どのように布教活動を先住民に対して行ったかを明らかにする。次に、Apessら先住民とキリスト教の白人社会とどのような相互作用があり、そこからどのように先住民が権利意識に目覚めていったかを明らかにする。 二つ目は、同時代のアメリカン・ルネッサンスを代表する主流作家、Edgar Allan PoeのThe Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket(1838)と先住民作家Apessの思想の比較論である。当時、先住民は古代イスラエルの「失われた十部族」であるという説が人口に膾炙されていたが、Apessもその説を奉じることで、先住民の地位向上を目指していた。一方、PoeのPymの物語の後半に現れるヘブライ語は、この説を暗示しているかようにも解釈でき、Poeが用いた資料を示す先行研究もある。白人と先住民の対極の立場にある二人の作家の思想を比較し、当時の先住民問題の捉え方を論じる予定である。 三つ目は、Apessの自伝A Son of the Forest(1831)とEulogy on King Philip(1836)を福岡大学の大島由起子氏と共同翻訳を行うことである。既に下訳は完成しているので、表現を推敲し読みやすいものに改訂していく予定である。 今年も勤務先の校務の比重が高いので、以上のように三つの課題をこなすのが困難ではあるが、何とかこの三つの課題をできる限り遂行して、最終年度の平成30年度に一冊の研究書を出せるまでに、こぎつけたい。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、研究の進捗状況が少し遅れ気味であった理由を既に述べたが、同様の理由で、参考資料の購入が、期間内に思うように進められなかった。本年度は、順調に使用していくつもりである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すべて、研究書の購入に充てる。平成29年度分の研究費も含めて以下の資料を揃える。1)William Apessに関する新刊の研究書、2)先住民作家とその文学研究、3)アメリカン・ルネッサンスに関する研究書、4)アメリン・ルネッサンスと先住民の関わりに関する研究書、5)19世紀の先住民の歴史・社会状況に関する研究書
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