2018 Fiscal Year Research-status Report
アメリカン・ルネッサンス期の先住民作家William Apessとその文学
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26370339
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
小沢 奈美恵 立正大学, 経済学部, 教授 (80204197)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | William Apess / 19世紀アメリカのメソジスト / 18-19世紀の先住民キリスト教徒 / 千年王国論 / 先住民=消えたユダヤの十部族説 / Conversion Narrative / 先住民市民権運動と奴隷制廃止運動の共闘 / インディアン強制移住法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、出版する予定の研究書の第3章に関連する論文を2本書いた。一つは、「先住民作家ウィリアム・エイプスとキリスト教:千年王国論に託された先住民の復権」で、もう一つは、「先住民作家ウィリアム・エイプスと回心物語:インディアンの鏡に映しだされるアメリカ社会」(投稿済みだが未出版)である。 上記、二つの論文によって、キリスト教福音派の説教師としてのエイプスが、当時のメソジスト教会とどのように関わり、他の先住民宣教師たちの動向とどのように関連していたのかに関する研究をまとめることができた。 エイプスの前に、ニューイングランドの先住民による自治の動きは始まっていた。ナラガンセット族の説教師サミュエル・ナイルズやモヘガン族のサムソン・オッカムとそのキリスト教徒先住民の自治による開拓地ブラザータウン建設、マヒカン族のヘンドリック・オウポマットと同様のニュー・ストックブリッジ建設があった。エイプスと同時代には、チェロキー族が強制移住法に反して自治権を目指した活動があり、この流れの中でエイプスの存在を見直すことができた。 また、これらの先住民キリスト教徒は、18世紀に大西洋横断的に起こったキリスト教復興運動の中で、白人キリスト教徒との関係の中で生まれ、徐々に自治権に目覚めていった。エイプスは、福音派キリスト教徒の中で信じられていた千年王国論と先住民=消えたユダヤの十部族説を用いて、先住民の地位を引き上げようとした。また、ピューリタンに伝統的な信仰告白という形式を用いながら白人社会がいかにキリストの理想から外れて矛盾した差別行為を行ってきたかを指摘して、先住民が教育権、選挙権などを持つ市民としてアメリカ合衆国の中で生き残る権利を持つと主張し、当時の支配的な「消えゆくインディアン」の言説を打ち破ろうとした。キリスト教は、白人社会の批判と同時に白人と共存する手段ともなっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の前半は、病気のため進捗状況はあまり良くなかったが、後半から回復して研究にある程度の時間を割くことができた。論文は2本書けたが、2本目は出版するところまでは至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカン・ルネッサンスの主流作家とウィリアム・エイプスの関連性が十分でないので、E.A.ポーの『ナンタケット島のアーサー・ゴードン・ピムの物語』とエイプスの作品の接点について、先住民と千年王国論という観点から、一つ論文をまとめる予定である。 また、ウィリアム・エイプスの研究書の出版に向けて、これまでに書いた論文・翻訳を編集し、さらに当時の先住民の置かれた法的・社会的状況について付け加える必要がある。できれば、年表や地図なども作成したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本来、2018年度で当該助成金は終了する予定であったが、2016年~17年にかけて大学教員としての委員会の仕事の比重が大きかった点、また、2018年度前半は病気が発見され、その治療などに時間がかかった点などから、一部を書籍の購入に利用させて頂いたものの、残りを研究書の出版費として執行できなかった。そのため、1年の助成金使用の延長を申請し、承認を受けることができた。2019年度に研究書の出版を目指す。
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