2014 Fiscal Year Research-status Report
現代カナダ西海岸文学:「多文化主義」、「人種主義」、「植民地主義」のポリティクス
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26370341
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
戸田 由紀子 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (40367636)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カナダ西海岸文学 / マイノリティ文学 / ラリッサ・ライ / ウェイド・コンプトン / 国際研究者交流 / 国際情報交換 / マドレン・ティエン / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「多文化主義」政策が現代カナダ西海岸文学に与えた影響を踏まえながら、現代カナダ西海岸の非白人(ビジブル・マイノリティおよび先住民)文学における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗する物語手法および言語行為を明らかにすることにある。26年度は、21世紀転換期以降のカナダ西海岸の非白人文学が、従来の伝統的移民物語から変わったことに着目し、ラリッサ・ライとウェイド・コンプトンの作品がどのように①支配者側の設定した枠組みに揺さぶりをかけ、②不平等を維持するその権力構造に問題提起し、③植民地化と経済の動きが人種主義と深く関わっているということを浮き彫りにしているかを検証した。研究成果は6月に中京大学で開催された日本カナダ文学会全国大会および9月に開催されたアメリカ文学会中部支部例会にて発表した。8月にはカナダのバンクーバーのUBCにて資料収集、カルガリー大学にて講演を行った。またそれらの研究成果は、『黒人研究』84号に「人種主義に抵抗する言葉を求めてーブリティッシュコロンビア州黒人作家ウェイド・コンプトンの『パフォーマンスの連帯』」、『カナダ文学研究』22号に"Smell and Transformation in Larissa Lai's Salt Fish Girl and Yoko Tawada's The Bridegroom Was a Dog"の二編の論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度に予定していた多文化主義の論争のレビューを行なうことができた。また、ブリティッシュ・コロンビア州黒人作家ウェイド・コンプトンの作品における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗する言語行為と物語手法を明らかにし、予定通り研究成果を論文にまとめることができた。その中で、BC州における黒人史を記したAfter Canaan(Compton 2010)およびカナダ西海岸の黒人文学アンソロジーBluesprint: Black British Columbian Literature and Orature(2001)を中心に西海岸の黒人の歴史および文学の動向をレビューした上で、「多文化主義」によって黒人が組織的に不可視化されるプロセスをコンプトンの作品がどのように可視化し、反人種差別と反植民地主義のディスコースをどのように展開しているかを検証することができた。当初予定していイーデン・ロビンソンの作品分析はできなかったが、その代わりに次年度に予定していたラリッサ・ライの小説の分析を行い、口頭発表および論文として研究成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は日系カナダ人作家ヒロミ・ゴトー、マレーシア系カナダ人作家マドレン・ティエン、アメリカから移民してきた中国系カナダ人作家 ラリッサ・ライの短編および小説における人種主義、植民地主義に抵抗する実験的物語手法について検証する。その際、西海岸を舞台にしたアジア系カナダ文学の代表的伝統的移民物語(Joy KogawaのObasan、Wayson ChoyのThe Jade Peonyなど)と、本研究で取り上げる「新移民」アジア系作家の作品がどう異なるかを踏まえて検証する。昨年に引き続き、NielBissoondathのSelling Illusions: The Cult of Multiculturalism in Canada (1994)やSunera ThobaniのExalted Subjects: Studies in the Making of Race and Nation in Canadaを始めとしたこれまでの「多文化主義」の議論をレビューし、カナダ人作家Madeleine Thienの小説における「人種主義」と「植民地主義」に抵抗するレトリックを考察する。自身の文化的歴史期的バックグランドから語る自己主張の物語ではなく、「他者」の視点から描く「他者理解」の物語手法について着目したい。また、6月にはヒロミ・ゴトーとラリッサ・ライをカナダから本務校に招聘し、「歴史、神話、フォークロア」と題したシンポジウムを開催する予定である。異なる文化の接点で、どのような物語が紡ぎ出されているのかに着目し、参加者の異文化理解を深めるきっかけとなればと考えている。
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Causes of Carryover |
年度末に購入できなかったため翌年度に予算をまわした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
書籍購入のために利用する。
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Research Products
(5 results)