2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀アメリカ文学にみる隠喩としてのトランスヒューマニズムに関する学際的研究
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26370348
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
中村 善雄 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (00361931)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オートマトン / ポスト・ヒューマン / 怪物 / サイエンス・フィクション / ゴシック小説 / ロマンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究テーマは、バイオテクノロジー的改変によるポスト・ヒューマンを主題とする小説研究であった。ナサニエル・ホーソーン の「ラパチーニの娘」や「痣」等の短編に着目し、男性のマッド・サイエンティストによって構築された、ポスト・ヒューマン的「女怪物」を取り上げ、人工的改造によって惹起される男性/女性や自然/人工などの境界喪失の問題を,ダナ・ハラウェイを初めとするサイボーグ理論を用いながら論じ、テクノユートピア主義の理想と瓦解を表す書き手としてのホーソーンの相貌に焦点を当てた。エコクリティシズム研究学会第28 回大会(2015年8月8日、於:広島市立大学サテライトキャンパス)では、「ホーソーンと自然」と銘打ったシンポジアムにて、「ホーソーンはサイエンス・フィクションの夢を見るか」と題した発表を行ない、ホーソーン作品とサイエンス・フィクションの親和性や、人工美の追求やエンハンスメント的身体強化に伴う女怪物の創造に着目し、ポスト・ヒューマン的イメージの抽出を行なった。その発表に加筆修正を加えたシンポジアム特集論文を『エコクリティシズム・レビュー』第9号(エコクリティシズム研究学会発行)に掲載する予定となっている(現在校正中)。その他に、科学研究費補助金基盤研究(B)「アメリカン・ルネサンス文学における情動と身体―アフェクト理論とその応用」(研究代表者:竹内勝徳)の研究成果である『身体と情動:アフェクトで読むアメリカン・ルネサンス』(2016年4月、彩流社)に所収の「電信とタイプライターの音楽と駆動する情動―メディア・テクノロジーに囚われしジェイムズ」と題した論文を執筆し、メディア・テクノロジーが発する機械音=音楽が無条件的に作家の情動を駆動させ、それが執筆スタイルや文体にまで及ぼす影響について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、バイオテクノロジー的視点からナサニエル・ホーソーン の「ラパチーニの娘」や「痣」等のゴシックロマンス的小説をいかに読むことができるか、その可能性について検討した。具体的にはそれらの短編に内在する、男性の科学による「女怪物」の創造とホーソーンの中間領域を基盤とする「ロマンス」の創作方法との関係性及び自然と人工、機械と人間といった二項対立的構図を解体していくダナ・ハラウェイのサイボーグ思想との親和性をエコクリティシズム研究学会シンポジアムにて成果発表し、またその発表を基にした論文が近々研究成果として公開される予定である。加えて、28年度はメディア・テクノロジーによる人間の意識の拡張や境界脱構築、時間/空間感覚の喪失といった諸問題をヘンリー・ジェイムズの作品を通じて考察する予定であるが、『身体と情動:アフェクトで読むアメリカン・ルネサンス』(2016年4月、彩流社)に、「電信とタイプライターの音楽と駆動する情動―メディア・テクノロジーに囚われしジェイムズ」と題した論文を執筆する機会を得て、次年度の研究課題にも部分的に取り組むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、メディア・テクノロジーによるトランスヒューマニズム的主題を内包する小説研究を推し進めながら、最終年度に当たるため、アメリカン・ルネサンスの作家達のテクノロジーに対する受容形態とその比較考察や、テクノロジーを媒介とするアメリカン・ルネサンスの作家達のアメリカ表象、(メディア)テクノロジーの発展に伴う人間とテクノロジーの関係の変容等をテーマとし、当該研究のまとめと総括を行いたいと考えている。また、エコクリティシズム研究学会による研究書に本課題に関連する論文が所収される予定となっており、それによって一般読者への研究成果の公開を果たすつもりである。
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Causes of Carryover |
夏季休暇中にボストン、特にハーバード大学にて機械文明とアメリカン・ルネサンスの作家に関連する調査と資料収集を予定していたが、本研究課題及び関連事項に関する原稿執筆の仕事が重複し、その時間確保のために海外出張を断念したため、繰越金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費については、前年度同様に主として消耗品費や備品費(当該研究に関連する図書〔作業効率の向上と図書の整理のために書籍や書類の電子化を進めており電子書籍を含む〕や消耗品、研究維持のための機器)、旅費(研究成果の公開や意見交換のための国内学会・研究会参加旅費、進行中の図書プロジェクトの打ち合わせ、資料収集や調査研究のための海外研修旅費(夏季休暇期間中にボストン(ハーバード大学)か、あるいはヘンリー・ジェイムズ国際学会への参加)に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)