2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370351
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 勉 東北大学, 文学研究科, 教授 (40292180)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス文学 / ヴァレリー / 生成論 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランス第三共和制期の代表的詩人思想家ポール・ヴァレリー(1871-1945)の書簡執筆を文学行為のひとつと捉え、発信と受信の両面で再検討することを目的とする。具体的には、フランス国立図書館所蔵の受信書簡集『総合書簡』全42巻をはじめとする関連資料を、現存する発信書簡と可能な限り照合しつつ、分析する。友人・知人・愛人ら多様な人物との往復書簡を詳細にたどることで、時代と濃密に関わった文人ヴァレリーの姿を文化史的な観点から明瞭に浮き彫りにすることが本研究の最終目的である。平成26年度の事業は、①資料調査、②イベント企画、以上二点に集約される。 ①主な研究対象コーパスとなる『総合書簡』全42巻(手稿分類番号NAF19163-19204)については、フランス国立図書館に赴き、まずマイクロフィルムで、およそ5千通にのぼるその全体に目を通すことを目ざす。予備調査で、資料体は差出人のアルファベット順に整理され、各巻平均120通程の分量、書簡は数行の葉書から数頁の封書まで様々であることがわかっている。基本的には、既刊の各種往復書簡集等に未収録のもので、未だ十分な検討がなされていないもの、なおかつ、文学史上あるいは文化史上、特に重要な資料と考えられるものの重点的な調査を目ざす。平成26年度については、諸般の事情により、長期休業期等を利用した外国出張を設定することができなかった。 ②ゲストに依頼して、研究打合せの機会を設け、文学書簡一般を含めた射程の広いテーマを設定し、東北大学大学院文学研究科や日本フランス語フランス文学会東北支部会等主催の講演会やシンポジウムのかたちでイベントを開催することを目ざす。平成26年度はパリ第十大学教授ウィリアム・マルクス氏を招聘し、ヴァレリーに関するセミナー「『アポロンの巫女』を読む」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は学内業務多忙により長期休暇中の海外出張調査が困難となったため、主要な研究目的である、フランス国立図書館での資料調査を実行することができなかった点がかえすがえすも残念であった。しかし、幸いなことに、職場の平成27年度サバティカル制度に応募して採択されたことにより、本研究の主要計画を平成27年度に重点的にシフトすることができる見通しとなり、遅れは完全に取り戻すことができる見込みである。また、平成26年度はウィリアム・マルクス氏を仙台の東北大学に招聘し、充実したセミナーを開催することができたが、平成27年度は数カ月のフランス滞在中にさらに多くの研究者と研究打合せを行うことができる見通しであり、将来的な研究の発展のための基盤を確保できる見通しであることは誠に喜ばしい次第である。なお、この他、国内での研究者との打合せや情報収集については順調に推移しており、フランス国立図書館での比較的長期にわたる調査に向けての予備的な情報の収集についても、作業は順調に進んでいることを付記したい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度のサバティカルを有効活用し、数カ月のフランス滞在を行い、パリのフランス国立図書館での調査を重点的に行う予定である。具体的な調査項目は以下の三点である。第一に、ピエール・ルイスからの書簡4巻分(NAF19183-19186)である。ルイスからの書簡は各種往復書簡集等に収録されているケースが多いが、未刊行のものも少なくない。ヴァレリーとルイスの往復書簡の一部が収められているジャック・ドゥーセ文学文庫での調査も同時に進めながら、ヴァレリーの詩論に大きな影響を与えたルイスとの関わりを再検討する。第二に、アンドレ・ブルトンからの書簡1巻分(NAF19167)である。ブルトンはヴァレリーに師事したのち、やがて決裂し、シュルレアリスムの首領となる人物であり、文化史における前衛と後衛の問題を考える際に、二人のやりとりは貴重なヒントとなる。そして第三に、晩年の愛人ジャン・ヴォワリエからの書簡1巻(NAF19204)およびフランス文学研究者エミリー・ヌーレからの書簡2巻(NAF19202-19203)である。ヴォワリエとの往復書簡の一部が収蔵されているセットのヴァレリー記念館での調査と合わせて、晩年の傑作『我がファウスト』の生成に大きな影響を及ぼしたヴォワリエとの関係を考察する。また、ヌーレからの書簡はこれまで詳しい研究がほとんどなされておらず、伝記的な面で新たな発見が期待される。重点的に扱うこれらの書簡以外にも、『総合書簡』には、ヴァレリーの生涯の各局面で重要な役割を果たす人物が多数登場する。疑問点については折に触れて、評伝『ポール・ヴァレリー』の著者ミシェル・ジャルティ氏に教示を願う。氏との連絡体制は密であり、情報提供を依頼する上での支障はない。
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Causes of Carryover |
平成26年度は全般的に学内業務多忙のため長期休暇等における海外資料調査が困難な状況となり、海外出張旅費の支出を控えざるをえなかったことによる。また、平成26年10月中に職場の平成27年度サバティカル制度公募に採択されたことを受けて、平成27年度における重点的な研究実施の見通しが立ったことにより、年度の枠を超えた研究予算の重点的配置を計画したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度サバティカル制度を活用し、5月中旬から7月末日まで、および、11月中旬から12月下旬まで、合わせて約4カ月間のフランス滞在を行い、本研究の主要な検討対象である、パリのフランス国立図書館所蔵のヴァレリー書簡資料を総合的かつ集中的に調査する。繰り越し分は平成27年度予算と合わせて、旅費に重点的に使用する計画である。
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