2015 Fiscal Year Research-status Report
ティブッルスとプロペルティウスの比較研究に基づく恋愛エレゲイア詩の進化の解明
Project/Area Number |
26370352
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日向 太郎 (園田太郎) 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (40572904)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | ラテン韻文 / エレゲイア詩人 / 恋愛文学 / ティブッルス / プロペルティウス |
Outline of Annual Research Achievements |
古代ローマ共和制末期に活躍した恋愛詩人、プロペルティウスPropertiusとティブッルス Tibullusの両者について、前年度に引き続きその作品の精読につとめ、両者を比較し、その類似性および相違点を分析した。両者の恋愛詩はともに、特定の恋人に奉げられているが、プロペルティウスの場合、第2巻第1歌にも認められるように、自身の恋人キュンティアを創作の霊感を与える存在として性格づけている。一方、ティブッルスには自ら恋人にそのような機能を認めてはいない。ティブッルスは、軍事的功績や海外交易による富の蓄積の可能性を敢えて捨て、(けっして大きくはない)私有地を基盤とした自足自給的な農耕生活を、自らの理想として選択する。そして、そのような生活の場において恋人との共同生活を夢見る。自身は主人と崇める恋人に対して、下僕として仕えることも辞さない。そのような「恋愛による隷属状態(servitium amoris)」は、プロペルティウスにもないわけではないが、ティブッルスは徹底して自らの隷属的性格を強調している。その結果、作品の底流をなしているのは、自虐や自嘲の傾向である。これは、いわゆるマラトゥス作品群(1.4, 1.8, 1.9)には、自己の戯画化という形で現れてくる。一方、プロペルティウスには、そのような戯画化は初期の作品には、すくなくともティブッルスほど先鋭なかたちでは現れてこない。両者はともに、自らを恋の苦しみをいやというほど味わっているという理由で、恋愛の師(magister amoris)を自任するが、ティブッルスの場合自嘲の傾向がより強いため、師としての権威すらも一層危ういものに見せている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ローマ共和制末期の詩人の創作活動を主題とした論文集、Augustan Poetry and the Roman Republic (edited by J. Farrell and D.P. Nelis) Oxford 2013の書評を『西洋古典学研究』64 (2016)に寄稿した。同書や関連文献を読むことによって、ティブッルス、プロペルティウスおよび同時代の詩人についての歴史認識について、知識を深め、視野を拡大する機会に恵まれた。2015年5月には、日本英文学会(第87回大会)からの招待を受け、「古代修辞学におけるエクフラシス」という題目で、シンポジウムに参加した。報告は同学会のProceedingsにも掲載された。また、6月には地中海学会のトーキング(テーマは「動物と人のかかわり──地中海世界の文化とくらしにおける動物」)にパネリストとして加わり、古代における蜜蜂の再生術について報告した。ウェルギリウスの『農耕詩』第4巻について触れた。なお、2015年9月から半年にわたってピサ大学において、当該テーマについての研究に専念することができた。この時期に、同大学でラテン文学を講ずるアレッサンドロ・ルッソ Alessandro Russo教授、マウロ・トゥッリ Mauro Tulli教授をはじめとする研究者らと日常的に研究打ち合わせを行った。また、ピサ大学やピサ高等師範の図書館を利用し、長らく未見だった研究関連文献を調査、閲覧し、資料収集を進めた。この結果、ティブッルス第1巻第9歌について考察を著し、フィロロギカ研究会の学術誌『フィロロギカ』に投稿することができた。現在査読を受けているところである。2016年3月にはピサ大学において、プロペルティウス第4巻第7歌について、講演を行い、多くの研究者らと意見交換をする機会にも恵まれた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2015年度の後半6ヶ月に、ピサで研究専念することができたのは、真にありがたいことであり、前年度に比し研究の進捗状況も好転したと思われる。この研究の成果を、まずは西洋古典学会が3年に1度刊行している欧文雑誌Jasca3号(2017年刊行)に投稿するという形で実現したい。上記「研究実績の概要」にも示したように、いわゆるマラトゥス作品群(1.4, 1.8, 1.9)におけるmagister amorisをテーマとした論文を執筆、投稿することが目標である。また、恋愛詩のregnumの概念について、プロペルティウス、ティブッルスの両詩人について分析し、所属先の紀要『言語・情報・テキスト』に発表することを考えている。さらに、プロペルティウス、ティブッルスの両詩人は、ともに元首政アウグストゥスの意向を受けて、ローマの歴史を主題とした作品を残しているが、この共通のテーマで歌われたティブッルス第2巻第5歌とプロペルティウス第4巻第1歌(など)とを比較し、両詩人のあいだの相互的影響関係を分析する。その成果を、『フィロロギカ』等の学術誌に投稿するつもりである。 ピサ大学における研究専念期間中に、あらたに多くのイタリア人研究者と知り合うことができたことは大きな収穫であり、今後の研究を進める際には、大いなる助けとなると思われる。また、ピサ大学やピサ高等師範の図書館の様子を知ることが出来た。今後とも利用の継続が可能である。今年度も2週間ほどの期間、イタリアに渡航し、ピサを中心として文献調査、資料収集、研究者らとの打ち合わせを行うことを予定している。また、研究分野に関連する学術図書(とりわけ注釈書やテクスト)を随時購入する。
|
Research Products
(8 results)