2016 Fiscal Year Annual Research Report
Research on Project Arts in contemporary France
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26370354
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩塚 秀一郎 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (70333581)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 実存的制約 / ペレック / 発見術 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は実施計画に照らして、ジョルジュ・ペレックによる日常観察のあり様を、『さまざまな空間』という著作に基づいて考察するとともに、ペレックによるプロジェクト・ワークの影響についても、これまでの研究を総合するかたちで論をまとめた。ペレックをはじめとするさまざまな著作家やアーティストによるプロジェクト・ワークの根幹をなすのは、主体の行動を縛る「制約」であるが、『さまざまな空間』では制約が作品の生成原理となっているわけではない。だが、この書物は社会の効率至上主義に抗し、「緩慢さ」を称揚する目論見の一環として、「ゆっくり書くこと」および「ゆっくり見ること」という、制約の新たな効用を提示している。『さまざまな空間』によって提案される「実存的制約」(主体の行動を縛る制約)は、ユダヤ人の苦難にも、戦争孤児という境遇にも、芸術の使命にも、直接結びつくことはなく、その名称にもかかわらず、いわゆる「実存」との関わりがもっとも薄く、遊戯的色彩が強いように感じられる。しかし、速度と功利主義に縛られ、日常の空間と親密な関係を結びがたい現代人にとって、実存的制約を含む遊戯的アプローチは、なかば自動化してしまった生活を具体的に改善する手がかりとなりうる。ペレックは『さまざまな空間』をはじめとする著作によって、「実存的制約」のこうした効用を示したと言え、前年度までに調査を終えたヴァセ、マスペロ、ボンらの文学者はクノーの遺産の後継者であるともみなせる。一方で、今日、ペレックの受容は文学よりアートの領域で強く実感されるのも確かであり、クリスチャン・ボルタンスキー、ソフィー・カル、河原温らの作品やパフォーマンスにも、「実存的制約」とみなしうる側面があるが、今年度の調査によって、彼らの仕事には、ペレック的な「制約」がもっている〈発見術〉としての性格が薄いことが示された。
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Research Products
(3 results)