2014 Fiscal Year Research-status Report
十九世紀フランス旅行記における「観光」の概念の導入と変遷
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26370365
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
田口 亜紀 共立女子大学, 文芸学部, 准教授 (90600502)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス / ガイドブック / 旅行記 / ツーリスト / 観光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、観光黎明期の歴史的かつ文化的状況を念頭に置き、1811~71 年にフランス語で書かれた旅行記において、「観光」の概念の表出を跡づけ、この概念の変遷を明らかにし、現代観光文化の諸問題の根源を探ることを目的とする。本研究課題では、1811 年(作家による旅行記の嚆矢となったシャトーブリアン著『パリからエルサレムまでの旅程』刊行年)から1871 年(普仏戦争敗北年)までの期間に研究対象を絞り、以下の項目を論考することを目的にした。すなわち、 1 近代的ガイドブックの出版背景と内容、 2 旅行記書誌の完成、3 観光客(ツーリスト)の表象、4 現代観光文化への示唆、 である。 観光文化学ではツーリストの定義が様々に試みられている。観光旅行が人びとの余暇となった現代社会では、誰でも「ツーリスト」になりうる。だが、飛行機や鉄道を利用して気軽に旅が楽しめる現代とは旅のしかたが著しく異なった19 世紀前半、現代フランス語のコノテーションが、当時受容されていた属性や性質に一致するわけではない。ツーリストの語が辞書で定義され始めるのは19 世紀後半であるが、その定義を19 世紀前半の状況にそのまま当てはめるわけにもいかない。本研究では、ツーリストが生まれた状況でそう呼ばれたのはどのような人だったのかを、テキストから読み解く。そのため、旅行記とツーリズムに関連する書誌を作成することが緊急課題であった。今年度これまでに調査した文献に加えて、19 世紀の主要な旅行記と研究書の書誌をリストアップした。現在進行中の研究でも旅行記の書誌を作っていることから、この成果を有効に活用できるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1811 年(作家による旅行記の嚆矢となったシャトーブリアン著『パリからエルサレムまでの旅程』刊行年)から1871 年(普仏戦争敗北年)までの期間にフランス語で書かれた旅行記において、ツーリストの表出を跡づけ、この概念の変遷を明らかにすることを目的のひとつとした。旅行記、ガイドブックを対象に、基本文献資料のリストの作成に取りかかり、入手可能なものは購入した。資料を検討し、読解作業にあたった。 また、19世紀から20世紀前半に発表された主要な旅行記と研究書の書誌をリストアップし、コーパス選定に専念した。テキスト読解と平行して、概説書や解説書によって、旅行記で描かれる観光の諸条件の理解を深めるが、これは研究の進んだ段階で、研究対象をパノラマ的展望の下に置くために必須だと思われるためである。 コーパス選定にあたっては、これらの文献リストを中心に、研究課題に合致する文献を洗い出し、読み込み・検討作業を行った。当資料は今後の文献精読・分析・論考の資料となる。近代的ガイドブックの出版背景と内容を跡づける第一段階として、辞書類や概説書を参考に、観光文化の変遷を辿っておく必要がある。さらに、研究書を参考にし、研究の足がかりを見つけ、課題へのアプローチを多様化させることを目標にした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、文献精読・分析・論考を行う。テーマは上述したように、近代的ガイドブックの出版背景と内容、旅行記書誌の完成、観光客(ツーリスト)の表象、現代観光文化への示唆である。これらを、有機的に結びつけて、それらを総括することで、最終的に研究成果を提示する。 とくに、ガイドブック(旅行案内書)は具体的かつ実用的な情報を伝達することで、旅を指南し、旅行者を増やしたともいえるだろう。ドイツの『ベデカー』に続いて、1830 年代、フランスではジョアンヌのガイドブックが刊行され、アルプスやイタリアの都市がその記述対象になる。だがガイドブックを偏重する旅行者は旅先で何も見ないと揶揄され、発売早々ガイドブックの弊害が指摘される。今後、本研究では、19 世紀にフランスで刊行されたガイドブックの記述内容の変遷を跡づける。その結果、ガイドブックが提案する「見るべきもの」が、旅行記作家が描写するものの選定を左右するのか否か、その場合どのように作家に影響を与えるのかを考察する予定である。 また、対象となる地域、時代の社会、歴史を熟知していなければ、充分にテキストを理解することができない。社会的文化的視野を広げて、文献の検討作業を行い、欠落している文献の調査・収集を行う。テキストを精読し、研究対象作品に描かれる観光の諸相を分析し、研究の進んだ段階で、研究対象を総合的展望の下に置く。
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Research Products
(2 results)