2017 Fiscal Year Research-status Report
子供から眺めた第二次大戦期フランスのユダヤ人迫害の検討
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26370369
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安原 伸一朗 日本大学, 商学部, 准教授 (80447325)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ショアー / 証言作品 / 現代フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、東欧出身のユダヤ人を両親にもつフランスの作家、ピエール・パシェの主著の一つである『父の自伝』をめぐって、平成28年度の国際シンポジウムにて口頭発表した内容をもとに論文を発表した。そこではまず、父の「自伝」の執筆という試みが、亡き父の声を聞き取って書き記すという作業である以上、本質的にかなり特異な試みであることを指摘した。そのうえで、このパシェの倒錯した試みの出発点には、個人の「内面」を見据え続ける姿勢が明確に打ち出されていることを明らかにした。すなわち、歴史のなかの一個人への眼差しにとどまらず、父という近しい存在が、自分が生き、また自分を呑み込もうとする歴史をどのように捉えようとしていたかという視点をも設えるのが、パシェの独自性なのだと指摘した。そして、そのように、20世紀のヨーロッパを呑み込んだ大きな歴史(ポグロムをはじめとする反ユダヤ主義の高まり、それに抗するシオニズムの誕生、第二次大戦、ナチス占領下でのフランスでの逃避行、戦後の冷戦世界)のなかを生き抜いた父の物語を、あくまでも職業生活や家庭生活を送る一個人のその思考や情動といった「内面」から描くことによって、パシェはむしろ、種々の状況に対して頑ななまでの非順応主義を貫くことができたのではないかと結論づけた。 また、フランスにおけるショアー研究の第一人者である歴史家アネット・ヴィヴィオルカの論文「証言と歴史を書き記すこと」を翻訳、発表した。 なお、平成29年度は、当初の予定では本研究の最終年度となるはずだったが、研究遂行者の多忙により、平成30年度に延長している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
これまで主として〈証言-作品〉の特性について研究を進めてきたが、生存者たる子供と証言を構成する言語との関係という観点からすれば、それらの〈証言-作品〉が「自伝」の性格をも有するという点を考慮に入れざるをえないことがわかり、それに伴って、当初の予定を上回る数の研究書の調査を要することが判明したために、前年度に予定していた、平成28年度の資料調査の結果を論文にまとめる作業が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究が遅れているため、当初、平成29年度に行なう予定だった以下の作業を進める。すなわち、平成28年度に行なったフランスでの資料調査、とりわけショアー記念館とCERCILでの調査結果およびその考察を、論文としてまとめる作業である。その際には、ビエ・ヴェール作戦とヴェルディヴ事件によって、皮肉にも、父親のみが生き残り、娘や妻が殺された事例などを扱う予定である。そして、これまでの研究を総括を試みる。
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Causes of Carryover |
これまで主として〈証言-作品〉の特性について研究を進めてきたが、生存者たる子供と証言を構成する言語との関係という観点からすれば、それらの〈証言-作品〉が「自伝」の性格をも有するという点を考慮に入れざるをえないことがわかり、それに伴って、当初の予定を上回る数の研究書の調査を要することが判明したために、研究期間延長の申請をしたところ、認められた。今年度は、これまで行なう予定だった、平成28年度の資料調査の結果を論文にまとめる。
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Remarks |
アネット・ヴィヴィオルカ「証言と歴史を書き記すこと」の翻訳、剣持久木編『越境する歴史認識』(岩波書店)、2018年、p.75-92
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