2014 Fiscal Year Research-status Report
ケベック・ベルギー・スイスの仏語圏文学にみる脱周縁性とトランスナショナルな変容
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26370376
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
真田 桂子 阪南大学, 流通学部, 教授 (60278752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩本 和子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (60203410)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ケベック / ベルギー / 仏語圏文学 / 多元社会 / ナショナリズム / ナシオン / トランスナショナル / 比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)平成25年度(2013年10月)に日本ケベック学会全国大会においてコーディネーターとして企画したワークショップ『ケベックとベルギー:フランス語圏の多元社会―言語・政治・文学―』について総括を行い、日本ケベック学会の学会誌『ケベック研究』第6号にまとめとして「目的と総括」、研究発表論文(業績欄参照)を執筆した。ワークショップでのケベックとベルギー双方からの検証を通し、両地域の多元社会の質の違いが浮き彫りとなり、両地域の言語政策や文学動向の世界的な影響力が明らかになった。さらにベルギーの拮抗する共同体の共存とその民族性に依拠するあり方と、ケベックのマジョリティとしての核を維持しながら多様なマイノリティを包摂するあり方の違いに見られるように、「ナショナル」な意味の重層性が浮かび上がり、言語と民族を基軸にした「ナショナル」なものが意味するところの差異と変容が、両地域の今後の研究にとって重要なテーマとなることが明らかになった。
(2)2014年秋のスコットランド、スペインのカタルーニャでの独立を問う住民投票の動向を受けて、それらの地域とケベックとのナショナリズムをめぐる社会的背景と特徴について比較検証を行った。この検証は、『季刊民族学』編集部より依頼を受け152号(平成27年4月25日刊行)の特集「西洋社会の多様性」へ寄稿した論考執筆の一環として行った。分析の結果、歴史的に抑圧された地域の状況とマイノリティの抵抗として現れたナショナリズムのあり方において、ケベックと他の諸地域には共通性が認められた。一方、ナショナリズムの発露としての文化政策の推進や文学を始めとする表象芸術、パフォーミングアーツの隆盛に、ケベックのナショナリズムの独自性が見いだされ、この特徴がケベックのトランスナショナルな動向と結びついているとの知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ケベックとベルギー、またバスク、カタルーニャ、スコットランド等の欧州のナショナリズムが顕著である諸地域との比較検証を行い、ケベックとベルギーの多元社会としての違いや、ケベック社会や表象芸術における独自性を明らかにすることができた。特に欧州の周縁地域に属しマイノリティでありながら、ナショナリズムを強く打ち出している諸地域との比較分析は、フランス語圏であるケベックを外側から見直す有意義な機会であり、西洋社会の周縁にありながらトランスナショナルな動向を示す要因を探り出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果より、ケベックとベルギーのトランスナショナルな独自性についてのいくつかの要因を探ることが出来た。今後はさらに、ケベック、ベルギー、スイスなどのフランス語圏を中心に、他の諸地域も含めた比較研究を推進し、とりわけ社会と文学、表象芸術の関係に注目し、それらがトランスナショナルな動向を推し進める原動力となっていることを、様々な角度から分析検証し明らかにしていきたい。27年度においては、引き続きケベック、ベルギー、スイスのそれぞれの地域の社会的状況についての分析を進めるとともに、個別の作家や作品の分析にも着手し検証を進めるつもりである。
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Causes of Carryover |
昨年度の交付額から次年度繰り越し金が生じた大きな理由としては、研究代表者(真田)において、文献収集、研究打ち合わせのための海外出張の日程を諸般の事情により変更し短縮したためである。科研費研究のための海外出張は、当初は夏季休業中に予定していたが、学内業務のため夏季休業中の出張は行えず、代わって4月末からのゴールデンウィーク中に短縮して行った。また研究分担者(岩本)においても、他業務のため交付額の未使用額が生じたが、次年度の研究計画の遂行に回す方が有効だと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者(真田)においては、次年度繰越金を交付額を含め、27年度の研究計画を有効に遂行するために使用する予定である。主たる使用計画としては、研究打ち合わせと文献収集のための海外出張と国内出張のための旅費、文献資料等の購入のための物品費、専門家を招いたレクチャーのための講師招聘や、翻訳、校閲、専門知識供与に対する謝金等を予定している。 また研究分担者(岩本)においても、繰越金を含めた交付額を、主に研究打ち合わせと文献収集のための海外出張等に有効に使用する予定である。 さらに研究代表者(真田)も研究分担者(岩本)も、ともに平成28年度ベルギーで開催されるFIPF(世界フランス語教授連盟)の大会等で研究成果の一部を発表することを計画しており、28年度にわたる研究計画の展望において交付金を使用する予定である。
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