2015 Fiscal Year Research-status Report
ケベック・ベルギー・スイスの仏語圏文学にみる脱周縁性とトランスナショナルな変容
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26370376
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
真田 桂子 阪南大学, 流通学部, 教授 (60278752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩本 和子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (60203410)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トランスナショナル / ケベック / ベルギー / 舞台芸術 / ムアワッド、ワジディ / 移民・難民問題 / フランス語圏文学 / 越境性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者である真田の当該研究の成果としては、カナダ・ケベックを中心に活躍し、今日フランス語圏全般で高い評価を得ている劇作家のワジディ・ムアワッド(Wajdi Mouawad)の作品に注目し分析を行った。レバノン出身で内戦に翻弄される人々の姿を描き人間性への深い洞察を繰り広げるムアワッドは、レバノン、フランス、ケベックと移住したトランスナショナルな視点のもとで戦禍の記憶を検証し、極限の状況で炙り出される普遍的な人間性を明らかにしながら、現代の喫緊の課題である移民・難民問題に新たな光を投じている。この研究成果は論考「W.ムアワッドの戯曲にみるトランスナショナルな戦禍の記憶」(『阪南論集』第51号、業績リスト参照)としてまとめた。 研究分担者の岩本の当該研究の成果としては、19世紀から現代に至るまでベルギーの仏語文学において重要な特徴をなす「幻想性」について、フランス文学との相違、ドイツやラテンアメリカとのトランスナショナルな連関性を通してその特徴を探った。その研究成果は、論文「ベルギーの幻想文学―現実と非現実のはざまー」(『国際文化学研究』第45号、業績リスト参照)としてまとめた。 また2016年2月には阪南大学あべのハルカスキャンパスにおいて、ベルギー研究会との共催により第一回日本ケベック学会西日本地区研究会を開催し、真田と岩本はともに企画・運営に携わり、研究報告の司会およびコメンテータ―を担当した。研究会のテーマは「ケベックとベルギー:その言語状況と舞台芸術」で、それぞれの研究発表と討論を通して、ケベックとベルギーの両地域は、ともに複雑で多層的な言語状況のもとで緊張関係を孕む多文化社会を形作ってきたが、そうした社会背景はとりわけ舞台芸術や文化政策に色濃く反映され、今日、世界的にも注目を浴びるトランスナショナルな舞台芸術の発展に結びついていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の真田と研究分担者の岩本は、それぞれの担当領域(ケベック、およびベルギー)において、当該研究のテーマであるフランス語圏文学のトランスナショナルな変容を示唆する作家、作品、ならびに社会状況に注目し研究を進めることが出来た。また各々の個別の研究に加え、ケベック学会とベルギー研究会との合同研究会を開催し、言語問題と舞台芸術を中心にケベックとベルギーの比較研究を推進することが出来た。 なお真田の研究対象である劇作家のムアワッドは、今日フランス語圏全般で評価が高まっており、日本でもその作品が上演され関心が高まっている。また岩本の研究領域であるベルギーは、2016年3月のテロ事件を発端に、その複雑な多言語状況と緊張関係を孕む多文化社会の在り方に注目が高まっている。これまでどちらかといえば周縁地域とみなされていたケベックやベルギーから、フランス語圏全般あるいは世界的にも注目される文化・芸術が生まれつつある理由は、こうした社会情勢とも密接に関係していると考えられ、我々の当該研究の有用性が実証されつつあると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度(平成27年度)には、当該研究の研究領域であるフランスやベルギーで、相次いで移民・難民問題が結びついたテロが発生し、この地域の緊張関係を孕む言語的、文化的社会状況に大きな注目が集まっている。当該研究では、これら地域の言語的、文化的状況とそれらが文学、芸術に及ぼす影響と重要性についていち早く認識し研究を進めてきた。次年度以降、さらに両地域を中心とするフランス語圏社会の変容について検証をすすめ、それらを反映する文学や芸術の脱周縁的で普遍的な側面を浮き彫りにすることをめざす。 具体的には、研究代表者の真田は、ムアワッドやルパージュなど世界的に活躍するケベックの劇作家を中心に、フランス語圏文学全般への波及や浸透、そのトランスナショナルな影響力と普遍性についてさらに掘り下げた検証を行う。分担者の岩本は、ベルギー における移民作家にも注目し、現代ベルギー社会の変容と文学、芸術の関係性について考察を行う予定である。研究成果は各々の論考として発表するとともに、随時、研究会や講演会を企画して、真田と岩本、第三者も含めた共同討議も行い研究を進める。その他、機会があれば国際学会や会議等での発表も積極的に行う予定である。
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Causes of Carryover |
主な理由としては、諸事情のため、最新の研究資料収集と研究打合せのための海外出張が当初の予定より短縮されたことにより繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究計画における、海外、国内出張旅費、現地での研究資料、書籍の購入、研究成果発表のための学会参加費、研究補助、謝金等に充てる予定である。
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